猛牛のささやきBACK NUMBER
オリの若手投手が伸びる陰にこの男。
「勝己さんだとフォークが落ちる」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2017/06/30 07:00
一軍こそがプロ野球の晴れ舞台である。しかし陰で支える山崎勝己のような人間がいなければ、その輝きは続かないのだ。
一軍から落ちた投手に「キャッチャーと話したか?」と。
2年目の22歳、青山大紀は、5月19日の北海道日本ハム戦で今年の一軍初登板が巡ってきたのだが、4回3失点の結果に終わり、翌日、降格となった。
その時ファームにいた山崎は、戻ってきた青山に、「上で、ちゃんとキャッチャーと話してたか?」と声をかけたという。
「話さずにやると、やっぱり普段組んでいないキャッチャーは僕がどういう攻め方をしたいのかがわからないので、バッターだけのデータになってしまうから、ちゃんと話さなきゃいけないって。そういうフォローもしてくれるんです」と青山は感謝する。
自分がマスクを被っている時に限らず、投手個々が力を発揮するためのアドバイスを惜しまない。
山崎は、報徳学園高から2000年のドラフト4位で福岡ダイエーに入団した。2010、11年には杉内俊哉、和田毅といった球界を代表する投手とバッテリーを組みソフトバンクのリーグ連覇に貢献。日本シリーズでもマスクを被り日本一も経験した。その後、'13年のオフにFAでオリックスに移籍した。
「勝己さんと組む時は、なぜかフォークが落ちる」
通算打率は1割台(.197)で、特別肩が強いわけでもない。それでも優勝を経験し34歳の今も必要とされているのは、投手を活かす深遠なリードやコミュニケーション力があるからだ。
また捕球技術も確かだ。ワンバウンドしたボールもグラブに吸い付くように受け止める。吉田凌は、「勝己さんと組む時は、なぜかフォークが落ちるんです」と言う。
「だから三振やゲッツーを取れて楽なんです。たぶん、ワンバンを投げても絶対止めてくれるという信頼感があるから、ガンと落とせるんだと思います」
オリックスに移籍後は、ブランドン・ディクソンとバッテリーを組んだり、試合終盤のリードを任されることが多かった。昨年のシーズン前半は出場機会を増やしていたが、チームが最下位に沈んだこともあり、後半は20歳(当時)の若月健矢と入れ替わるようにファームで過ごした。それでも腐ることなく、自分のいる場所でやるべきことに力を注いだ。