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「僕は目立たなくていい」守護神。
西武・増田達至は温和な人、でも。
posted2017/06/01 07:30
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph by
Kyodo News
自軍の攻撃が2アウトまで来ると、切り替わるスイッチ。1球、2球、3球……と、徐々にボールに力を込める。3アウトになるのを見届け、マウンドを降りてブルペンをあとにする。
ピッチャー交代のアナウンスにスタンドが沸き上がる。
「よっしゃ」と背筋が伸びる瞬間である。
ライオンズのクローザー、増田達至は5月28日現在、16試合に登板し8セーブを挙げている。セーブの数では首位を走る東北楽天ゴールデンイーグルスの松井裕樹、福岡ソフトバンクホークスのサファテ、オリックス・バファローズの平野佳寿に次ぐリーグ4位。格別に秀でた数字を残しているわけではないが、2016年、試合のいちばん最後を任されるクローザーに抜擢されて以来、常に安定した働きを見せている。「勝ち星を消された記憶がない」と、野上亮磨も語る西武のリリーフエースである。
「試合に登板する数が増えてきて、開幕に比べるとどんどん状態も上がってきています。あとは、この状態を維持していければいいなぁと思っています」
おっとりとした関西弁で語った。
先発の勝ちを消したときには、申し訳ないなぁと……。
緊張で足が震えるような試合を数多く経験しているリリーフ投手である。負けん気が強く、荒々しい性格なのではないか。そんな風に思って増田に接すると、おそらくほとんどの人が拍子抜けするだろう。のんびりとした所作と、優しい仕草。ブルペン待機組の投手陣からからかわれ、笑いのネタにされる。何を言われてもニコニコと笑顔を絶やさない、おそらくライオンズの歴代リリーフ投手の中で、最も温和な守護神ではないだろうか。
クローザーを務めるようになった2016年以前は、クローザーにつなぐポジションで登板していた増田。どちらもチームがリードしている場面でマウンドに上がる。もちろん、ときには打たれて、形勢を逆転されることもある。
「申し訳ないなぁと思うマウンドはいくつか思い浮かびます。先発ががんばってきた勝ちを消してしまったとき。それから、初勝利がかかっている投手の勝ちを消してしまったとき。そういうときには申し訳ないなぁと……。一度、初勝利のかかったカー君(宮田和希投手・現在は球団職員)の初勝利を消してしまって、試合のあとに謝りました。だって僕には謝ることしかできませんから」