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殺到するファン、国民の極端な期待……。
それでも桐生祥秀が一番9秒台に近い。
text by
別府響(Number編集部)Hibiki Beppu
photograph byYusuke Nakanishi/AFLO SPORT
posted2017/05/08 08:00
織田記念陸上での決勝レース。スタート前に精神を統一している桐生。このメンタルの強さが、9秒台への最強の武器となるはず。
世間のプレッシャーを3年間浴び続けてきた者の強さ。
桐生は高校3年生という若さで、期せずして10秒01という驚異的な記録を出して“しまった”。そのため、それからはどのレースに出場しても「9秒台は?」と聞かれ続けてきた。
ケガ明けであろうと、不調であろうと、常に「9秒台に一番近い男」という枕詞がつきまとっていたのだ。
今季の成長は、そこからの3年間の戦いの成果なのだろう。
「10秒の壁を破る」という重圧と、桐生はたった1人で戦い続けてきた。その日々の蓄積は、山縣にも、ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)にもない。100mにおいて日本の第一人者である桐生だからこそ持ちうる経験なのだ。
その体験に順調な冬季トレーニングが加わり、ここまでの走りにつながっている気がする。
進化した身体と、積み重ねた経験――。
「やっぱり最初に壁を破るのは、この男だ」
そんなことを考えさせられた、春の安芸路だった。