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楽天・茂木栄五郎ってなんなんだ!
学生時代の愛される逸話と、心臓。
posted2017/04/19 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
誰も悪く言う者がいない。
「茂木がいると担任がいらないって、あの頃、よくみんなで言ってました。自分たちの代わりに、あいつがクラスを全部まとめてくれましたから」
桐蔭学園高当時の茂木栄五郎を、生徒として指導した者が言う。
「やらんヤツに、やれ! って叱ることはしょっちゅうあるけれど、練習やり過ぎるから『もうやめとけ!』って言ったのは栄五郎だけよ。叱られても、まだ練習しとった」
早稲田大学当時の茂木栄五郎を、選手として指導した者が言う。
「茂木だけは間違いない……。スカウト全員が推して指名しました。想定以上の働きです。打率とか数字に現われる結果だけじゃないですから、茂木の場合は。野球を愛し、存分に野球ができる“今”を大切にする姿勢。若手だけじゃない、チーム全体の手本になってるんじゃないですか」
2015年のドラフト3位指名。
その入団にたずさわった者は、こんな表現で茂木栄五郎を語ってくれた。
「なんとかしてやらないと」と周囲に思わせる存在。
そういえば、思い出した場面がある。早稲田大学3年の秋だったと思う。
「学生ジャパン」の候補合宿があった。全国の大学リーグから推薦された選手たちが一堂に会し、ジャパン入りを目指してその腕を競う。つまり、オーディションである。
全体練習が終わったグラウンドで、サードのポジションに茂木栄五郎が立った。
ホームベース付近からノッカーの放つ打球が彼の足元へ飛ぶ。三遊間寄りを速い打球で襲われるとグラブが遅れぎみになる彼の難点を改善しようと、正式な指導陣とは別の“特別コーチ”が熱心に教える。
あっという間に夕やみがやってくる秋の午後。すでに薄暗くなってしまったグラウンドで、スタートのステップ、グラブを出す角度、腰・ヒザの沈め方。文字通り、手取り足取り。具体的な指導がいつ終わるともなく続いていた。
「あいつを見てると、なんとかして上手くしてやろうと思うのは、なんなんだ? こいつだけはなんとかしてやらないと……って、こっちに思わせる力を持ってるんだよ」