マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
楽天・茂木栄五郎ってなんなんだ!
学生時代の愛される逸話と、心臓。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2017/04/19 07:00
昨年は新人ながら、チーム最高打率を記録。グラウンドで目立つ方ではないが、1試合茂木栄五郎だけを見ていたいくらいの選手なのだ。
順調なキャリアに「不整脈」が空けた1年間の空白。
それほどの選手だから、よっぽどのことがなければ1年生の春からは使わない早稲田大学の野球部で、入学即、三塁手としてレギュラーに抜擢された。
3年の秋には打率.514で首位打者、4年の春には打率.390で2度目のベストナイン。3回のリーグ戦優勝に、「大学日本一」も2回。人もうらやむ学生野球生活を送った茂木栄五郎だが、実は2年の秋だけが、ポッカリ空白になっている。
事情を知っている人に、訊いて驚いた。
高校時代からの持病だった「不整脈」の治療に1シーズンを費やしたという。
カテーテル・アブレーション。
足の付け根から血管の中を通して、カテーテルという細い管を心臓に届かせ、電流を送って、不整脈の“震源”になっている箇所を焼き切る。その処置を行うことで、今は90%近い患者が不整脈から開放されるという。
私が驚いたのは、実は、私も同じ持病の持ち主だからだ。
それが直接の死因になることはめったにないそうだが、相手は心臓である。死の恐怖は、なった者にしかわからない。
脈が乱れ始めると歩くことも苦痛になり、正常な脈に戻るまでは、ほぼ何もできない。予兆がなく突然始まるのも、不安を増幅させる。徹夜で働いても出ないのに、眠っている間に始まっていて、飛び起きて薬を飲んだりする。
付き合いにくい相手である。
彼の場合は解消したと聞いているが、経験した者にしかわからない不安は、今だって抱えているはずだ。
ルーキーイヤーにレギュラー定着、3番打者。
それで、この活躍である。
ルーキーイヤーの昨季。学生から社会人に。初めてのプロ野球生活。しかも、ほぼ1年間レギュラーで通して、117試合で打率.278。
すべてが初体験の中で、大きなプレッシャーのかかる3番打者をつとめ、しかも、ほとんど初めて守る遊撃手としての1年間だ。
“鉄人”だって、クタクタになっているはずだ。