炎の一筆入魂BACK NUMBER
過去を捨てて甦った広島・今村猛。
「昔の球」よりも、今投げられる球を。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2017/03/30 11:30
宮崎県日南市での春季キャンプで、シート打撃に登板して力投した今村。
敗戦処理から勝利の方程式の一角へと復活。
今村もまた、出番を失った。
WBC出場の'13年は3年連続50試合登板となる57試合に登板するも、本来の切れを欠いた。対戦した打者が分かっていても打てなかった、糸を引いたように外角低めに吸い込まれる真っすぐは見られなくなった。
'14年は17試合、'15年は21試合と登板数を減らした。登板過多の中継ぎの宿命か。その影響は明らかだった。
下降線をたどっていた今村の野球人生は昨季、見事なV字回復を見せた。完全復活への大きな一歩を踏み出したシーズンと言えるだろう。
開幕当初は敗戦処理。そこから徐々に登板数を増やした。シーズン中盤までは先発と勝利の方程式をつなぐ役割として、複数イニングや状況を問わず投げ続けた。シーズン終盤には勝利の方程式入り。シーズン通して広島ブルペンを支え、25年ぶり優勝に大きく貢献した。
黒田博樹氏も「今年は(今村)猛の存在が利いている」とたたえていた。
過去の栄光を忘れ、現時点でのベストを探る。
なぜ、よみがえることができたのか──。
今村はまず過去の自分を消し去った。
「今と昔とでは体が違うので、昔のような球を投げろと言われても無理。今何ができるか」
周囲はあの、糸を引いたように外角低めに吸い込まれる真っすぐを求める。だが今村は理想を求めるのではなく、現実を見た。
そして投球フォームを矯正した。セットアッパーとして地位を確立していたときから、トレーナーに進言されていながら、自分の形を変えられなかった。
松原慶直トレーナーは言う。
「猛にはずっと言ってきたことでした。僕たちは言うことはできても、やるかやらないかは本人次第。選手にはこだわりもあるでしょうし、(変えることに)不安もあると思います。それを本人が受け入れた。猛の中ではマイナーチェンジと思っているかもしれないですが、僕らの中ではメジャーチェンジだと思っています」