炎の一筆入魂BACK NUMBER
過去を捨てて甦った広島・今村猛。
「昔の球」よりも、今投げられる球を。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2017/03/30 11:30
宮崎県日南市での春季キャンプで、シート打撃に登板して力投した今村。
変化を受け入れ、新たな投球スタイルを確立。
わずかな変化で何かが大きく変わる可能性を感じていた。
変化はネガティブなものではなく、ポジティブなもの。「変えられればきっと向上できる」と感じていたのだ。
昨季、今村は変化を受け入れ、まだ終わる選手ではないことを証明した。
力強さが戻ってきた直球とスライダー。そこにシーズン途中からフォークも大きな武器となった。
日本代表まで上り詰めた今村猛とは違う、今村猛が新たにつくられようとしている。
今季は中継ぎキャプテンを務める。これまでも年下の中崎翔太や戸田隆矢らに助言し、サポートしてきた。また中継ぎ転向となった同学年の大瀬良大地にも協力を惜しまなかった。
「僕は日本一になるまで泣きませんよ」
春季キャンプを終えた畝龍実投手コーチは、いの一番に今村の名前を挙げた。
「実戦には数試合しか投げていないけど、抑えをしたいと口にして課題をクリアしてきたことで、もう1つ上の段階に上がった。昨年以上のものがあるのではないかと思う。チームの中心になってきてくれている。やらないといけない気持ちが出てきている」
マウンドでも飄々と投げる右腕は、普段からおとなしい。感情を読み取りにくく、口数も少ない。まだ25歳だが、責任感が強いだけに、自分なりにチームに貢献できる形を模索しているのかもしれない。
そんな畝投手コーチと、優勝の瞬間に交わしたやりとりがある。
昨年9月10日。巨人に勝利し、敵地東京ドームで歓喜の輪ができる中、今村は抱擁した畝投手コーチにこう伝えた。
「まだ終わっていません。僕は日本一になるまで泣きませんよ」
シリーズ最多タイ記録となった全6試合での投球でも叶わなかった日本一。その頂を求めて、また新たなシーズンが幕を開ける。
まだ25歳。
今村はもっと変われるはずだ。