セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
柳沢、森本がプレーした島が……。
シチリアからセリエAクラブが消滅?
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2017/01/27 11:00
鹿島、そして日本代表のエースとして活躍した柳沢。メッシーナ2年間の在籍で29試合に出場した。
濃密な価値観は強烈な熱狂をもたらすが……。
カターニャ出身の現代作家ピエトランジェロ・ブッタフオーコは、同紙のインタビューで「1861年のイタリア統一以降、シチリアは(国家中央から)搾取されているという被害者意識や公共事業への依存体質から抜け出せていないのだ」と指摘した。
やたらと地元の出自に固執したり、面子を重視したりと、地方の鬱屈したコンプレックスは、どれだけ取り繕ってもいざ表舞台に出たとき暴走を始める。
閉じた田舎特有のドロドロとした濃密な価値観は、ファナティックな熱狂をもたらすが、宴の後に待っているのは激しい疲弊という代償だ。
いつかカターニャの安宿に泊まったとき、女主人に言われた。
「この島では、『食べる』のも『働く』のも『遊ぶ』のも、すべての動詞は等しく同じ重さなのよ」
シチリアの人間たちは、島のサッカーの栄華が永続しないことも、自分たちが勤勉で実利的なトリネーゼ(トリノ人)やミラネーゼ(ミラノ人)になれないことも自覚している。
シチリアの魂を体現するストラーリという守護神。
マルコ・ストラーリはカリアリの正守護神だったが、この冬、セカンドGKとしてミランへ入団した。3度目の出戻りだ。
40歳のベテランGKの履歴書には、タイトル欄にCLもスクデットも記してある。
名手ブッフォンの控えとして王者ユベントスで引退するという花道もあったはずが、「やっぱり俺はGKだ。ゴールの前に立つのが仕事だ」と言い残し、一昨年の夏、離島サルデーニャのカリアリへ移籍。正守護神としてセリエA昇格を支えた。
世に出たのは15年近く前、メッシーナでプレーしていたときのことだ。やはりA昇格と1年目の7位躍進の立役者だった。
「おまえら、情けなくねえのか!」
隣町の仇敵レッジーナとの“海峡ダービー”で、不甲斐なく敗れたチームメイトを怒鳴りつけた。その一方で、'06-'07シーズンにはリーグの制裁処置によって勝ち点11剥奪というハンデを背負ったレッジーナが、腐らず残留を手中に収めたことを素直に称える姿が印象に残った。
「それに引き換え、俺たちの体たらくは何だ!」と苦言を呈したストラーリは、義侠に篤い島の男そのものだった。