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なぜ太田宏介はFC東京に復帰したか。
「僕の左足を一番必要としてくれた」
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byAFLO
posted2017/01/13 11:00
太田宏介のクロスは低く、速く、そして正確だ。本気でJ1優勝を目指すチームにとって、大きな武器になることは間違いない。
「FC東京が、僕の左足を一番必要としてくれた」
自分らしいプレー。では太田にとって、それはどんな姿なのか。
代名詞は、左足のキック。曲がりながら鋭く落ちるボールの軌道は、直接フリーキックではゴールの四隅を捉え、コーナーキックやクロスでは受け手の味方に吸い込まれるように届いていく。J1では2014年シーズンに10アシスト、2015年シーズンには13アシストを記録。アシストランキングには軒並みMFの選手が並ぶ中、堂々DFとして君臨していたのが太田だった。
攻撃をほぼ封印されていたフィテッセでのプレー。何より苦しかったのが、最大の武器である『左』を、駆使できなかったところだった。
「そこの葛藤はありました。それでも、時間が解決してくれることだと信じ続けていました。ただ、FC東京でのプレーをイメージした時に、間違いなくそこで生かせる自信はある。オランダで僕の左足が錆びるわけではないだろうけど、今年で30歳を迎える選手にとって、やっぱり自分らしくやりがいを持ってプレーすることが大事という結論に至った。FC東京は間違いなく僕を、僕の左足を一番必要としてくれた。今回は誰にも相談することなく、自分で決めた移籍です。東京で待ってくれていたモリゲ(森重真人)や(東)慶悟も喜んで迎えてくれているし、ドイツに居るよっち(武藤嘉紀)も『コウちゃんが決めた道だから、それがベスト。東京を強くしてよ!』と言ってくれました」
1年前、オランダで見せたのに負けない笑顔で。
車は内見先の駐車場に到着した。ちょうど1年前にも、フィテッセのホームタウン・アーネムでドライブをしていた。その時の太田は、初の海外挑戦に嬉々とした笑顔を見せていた。あれから、12カ月。都内を走る車内で、彼の横顔を見ることになるとは思ってもみなかった。今の太田は、アーネムで見せていたあの表情に負けないぐらいの笑顔である。
「FC東京でのプレー、楽しみでしかないですね。(大久保)嘉人さんや永井(謙佑)も入って、クラブがここまでの補強をしたことはこれまでなかったと思う。この1年、2年でタイトルを獲らないと。真剣になっている証拠です。
僕も経験を積んで、プレーだけじゃなくて精神的にも周りを引っ張っていかないといけない立場。クラブからも期待されているところだから、自分が引っ張る、優勝に導くという気持ちがこれまで以上にある。欧州から帰ってくることは、それはそれでプレッシャーにもなる。下手なプレーはできない。ある意味、向こうでやり続けることよりもプレッシャーかもしれない。そこで結果を出せれば、自分の決断が間違っていなかったと証明できると思うんです」
青赤に、笑顔のコウスケが帰ってきた。今冬、大型移籍をいくつも成立させてきたFC東京。ある意味、この男の帰還が最大の補強となるかもしれない。