“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
5-0は大差か、勝負のアヤか。
青森山田だけが持っていたもの。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTadakatsu Matsuzaka
posted2017/01/10 12:20
22度目の出場にして初めて戴冠を果たした青森山田。高円宮杯U-18チャンピオンシップとの2冠は史上初。選手権歴代優勝校の中で最北端の高校となった。
無失点でタイトルを獲る、貴重な経験について。
広島ユースにはPK戦で、FC東京U-18戦ではMF高橋壱晟が決勝点を決めて勝ち切り、DF陣は共に無失点で抑え、2つのタイトルを手にした。
その成功体験こそ、決勝での彼らの大きな自信になっていたのだ。
一方で前橋育英は県予選決勝以外では大きなタイトルを勝ち取る経験をしていない。「自分達は失う物は何も無い。チャレンジャーで行きたい」と大塚が語ったように、前橋育英は先手必勝と言わんばかりに勢い良く前に出て戦うことが選択していた。
試合開始早々の5分に、右CKから人見がヘッドで合わせるが、これはゴールライン手前にいた青森山田CB小山内慎一郎によりヘッドではじき出されてしまう。前橋育英はそのクリアボールをすぐに拾って右サイドに展開すると、クロスをMF田部井悠がニアで合わすが、これは枠の外に。
16分には人見の縦パスに完全に抜け出したMF高沢颯が、廣末と1対1になるまで持ち込んだが、放ったシュートはブロックされてしまった。22分にDFの裏に大塚が絶妙なクロスを上げるが、ペナルティーエリア外に飛び出した廣末がDF顔負けの正確なヘッドで弾き返した。
「最初の勢いさえかわせば、チャンスが来ると」
度重なるチャンスをモノに出来なかった前橋育英。これにより、青森山田の逆襲が勢いを増すこととなった。
23分、青森山田はMF嵯峨理久の縦パスに抜け出したFW鳴海彰人が右サイドからセンタリング。これを高橋が左足トラップから左足ハーフボレー。GK月田は反応していたが、目の前でDFの足に当たってコースが変わり、ボールはゴールに吸い込まれた。
ファーストシュートで確実にゴールを射抜いた青森山田。
運もあるが、「チャレンジャーとして挑んで来る相手の、最初の勢いをかわせれば、チャンスが来ると思っていた」(高橋)と、勝負所を見逃さなかった。
「やられた後の切り替えが足りなかった。メンタル的にも次のプレーに響いてしまった。自分の気持ちの弱さが出た」
前橋育英のDF渡邊泰基は、その耐えきれない辛さを吐き出すようにコメントし、唇を噛んだ。高橋の一撃は想像以上のダメージを相手に与えていたのだ。そして、27分に大塚が決定的チャンスを外したことで、その傷口は、広がった。