Jをめぐる冒険BACK NUMBER
浦和が敷いた珍しい守備隊形の理由。
美学よりも、相手が嫌がることを。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byKiichi Matsumoto
posted2016/11/30 17:00
チームの勝負強さの根幹を支えるJ1最少失点の守備陣。鹿島はこの鉄壁の守備陣から2点を奪わなければならないが果たして……。
槙野「選手にとって一番辛いことは……」
こうしたトライが実際のところ、どこまで勝因に結びついたかは分からない。だが、これまで魅せるサッカーにこだわってきた浦和が、鹿島のお株を奪うかのように「相手の嫌がること」にトライした点に、大きな意義がある。
思い出したのは、セカンドステージ優勝を決める少し前、槙野が口にしたセリフだ。
「選手にとって何が一番辛いって『良いサッカーをしているのに勝てないね』って言われることなんですよ」
まさに、かつての浦和がそうだった。ペトロヴィッチ監督の元で“美しいサッカー”を追求し、観る者を魅了してきたが、ここ一番で勝負弱く、タイトルまであと一歩のところでことごとく掴み損ねてきた。
ところが、どうだろう。今季はルヴァンカップを制し、セカンドステージで優勝すると、年間勝ち点1位にもなって、チャンピオンシップ決勝でも先勝した。
「いい加減、勝負弱いチームから卒業したかった。それで今年は手堅さ、我慢強さ、したたかさというものにこだわるようになったんです。そうしたら勝てるようになって、今は結果と内容の両方にこだわれるようになっている。まずは結果。そうすれば内容はあとから付いてくるものだっていうことが分かってきた」
森脇が明かした「相手の嫌がることをする」というのは、「したたかさ」の部類に入るものだろう。
興梠「ダメならダメなりに状況を変える」
一方、「我慢強さ」という点で参考になるのは、興梠慎三の言葉だ。PKを獲得した以外なかなか好機を得られず、苦しい試合展開のなかで、興梠はこんなことを考えていたという。
「ダメならダメなりに状況を変えないといけない。今日はパスが繋がらないと思ったので、攻撃の3人(興梠、武藤雄樹、李忠成)はとりあえず守備で頑張ろうと思っていた。それがあったから、球際で激しくいけたと思っています」