投げれば投げるほど球威が増していくストレート。

　立ち上がり、速球を芯で捉えられた2安打、1犠飛であっという間に先取点を奪われた時は、連投の疲れを予感して「ドラフト2位をずいぶん無理させるものだな……」と少なからず心配したものだったが、2回からその腕の振りがうなり始めた。

　前日の1回戦より、間違いなく腕が振れている。しかも、なんとも気分よさそうに振れているから驚くじゃないか。

　ちょっと張りがあったほうが、腕の振りに力が入る。そんな言い方をする投手はときどきいるが、まさにそのタイプなのだろう。

　全国を争う決戦なのに、使えば1球で仕留められるフォークがあるのに、投げるボールの80％以上が快速球の痛快真っ向勝負だ。

　しかも、どんどん楽になっていくように見える腕の振りなのに、ホームベース上の伸びは尻上がりにすごみを増して、2回以降、外野へ飛んでいった打球は、ポテンが1本とフラッと上がった飛球が1本。あとは、10個の三振と13本の内野ゴロだった。

「小野さん、連投のほうがボール来るんですよ」

「小野さん、連投のほうがボール来るんですよ。いつもそうですから。昨日よりずっとよかったですよ、今日も」

　女房役を務める小林遼捕手（3年・仙台育英高）が当たり前のような顔で、そう言っていたそうだ。

　福岡の折尾愛真（おりおあいしん）高から岩手・花巻の富士大に入学した1年目。小野泰己は徹底的な走り込みを行なった。

　高校3年夏の予選直前にやってしまった右ヒザ半月板損傷手術のリハビリとして、ウエートトレーニングと並行させて、我慢強く励み、全身に驚異の持久力を培った。

　外国人選手・ゴメスの22本がチーム1。日本人選手では福留孝介と原口文仁の11本がいちばんだった今季の阪神タイガースのホームラン数。そんな攻撃陣に、雄大な放物線が描ける大山悠輔はどうしても必要だったのだろう。

【次ページ】　「やっぱり小野でよかったんや」と言わせる投手に。