マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「小野でよかったんや」と唸らせる男。
無名の阪神2位・小野泰己は素材◎。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/11/16 07:00
明治神宮大会で小野は7回1失点ながら上武大に0-1で敗れた。ただそのピッチングは、虎党も納得の好内容だった。
力み返ることもない、このフラット感はなんだ?
もちろんネット裏には、担当の阪神タイガース・葛西稔スカウトがバッテリーの延長線上の位置に座って、小野のピッチングをじっと見つめている。
マウンドの小野にそれが見えていないわけがない。しかも、スタンドに詰め掛けた各校の選手たちやファンの視線も、当然、「阪神2位指名の小野泰己」、そういう目で彼を凝視していたはずだ。
なのに、そのピッチングに気負いを感じない。
本人、もともとプロ志望だったし前評判も高く、そこそこ上位で名前を呼ばれるんだろうな……と、そういう予想はあっただろうから、実際、“阪神の2位”という重大な事実に直面した直後なら、もっと高ぶり、もっと高揚し、見せてやる! ともっと力み返っているのが普通であろう。指名されて、まだ2日目なのだ。
なのに、このフラット感はなんだ。
適当に力を抜きながら、ひょうひょうと投げる。
長い手足をゆったりと連動させ、大きく踏み込んではしなやかに腕を振り下ろして、打者の手元で伸び、動くボールをひょうひょうと投げ続ける。
適当に力を抜きながら、たまには力を抜き過ぎて、ただ1人飛び抜けたスイングスピードを持った1年生の1番バッターに、痛烈なセンター返しを浴びたりしても、平然と、ただ次の2番バッターに、いつもの調子で向き合っていくだけだ。
いつもと同じように、淡々と投げ進めるだけさ……そんな日常感が妙に頼もしい。
もっと感心したのは、その翌日だ。
明治神宮大会の代表を決する試合。
仙台六大学リーグで、全国常連の東北福祉大を下して優勝した仙台大と対戦した小野泰己は、2日連続の先発登板で、仙台大の強打線をわずか4安打に抑えて10三振を奪い、初回の1点だけで封じて完投してしまったから驚いた。