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青学に“詰めろ”をかけた早稲田。
全日本の健闘は箱根への伏線か。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKyodo News
posted2016/11/07 17:00
早稲田のアンカー安井雄一は、チームメイトに手を合わせ、謝るようにしてゴールした。箱根でこの借りを返すつもりに違いない。
スタート前、相楽監督の表情が実によかった。
大魚を逸した形になった早大だが、スタート前の相楽監督の表情が実によかった。
体育の日に行われた出雲駅伝でも、優勝は狙っていた。結果は1区の出遅れが響き、8位に終わってしまったが、この時レース前の相楽監督の表情は硬かった。意気込みが空回りしてしまったのかもしれない。
しかし、全日本のスタート前は「見通しはどうですか?」と問いかけると、
「分かりません」
と笑顔で答えてくれた。驚いた。あまりにも出雲のときとは違ったからだ。
「出雲が不甲斐ない結果だったので、もう開き直るしかない」
聞けば出雲駅伝の後、チーム全体でメンタル・トレーニングのセッションを受け、それからチームの雰囲気が好転したという。
「メンタルトレーナーの方とのセッションだけでなく、その後にチーム内でグループワークがあって、選手同士が話し合う機会があったんです。そこから、チームワークが格段に良くなった手応えがありました」
青学の胴上げを悔しそうに見ていた主将・平。
グループワークによって、精神状態を大きく改善した選手がいる。主将の平だ。
平は出雲駅伝の1区で13位と大きく出遅れ、責任を感じていた。
「出雲の結果が申し訳なくて……。それから2週間くらいは、その気持ちを引きずってしまい、みんなの前で笑顔では話せなかったですね。それがグループワークでみんなの前で自分のことを話すことになり、自分の中に溜まっていた『悪いもの』が吐き出せた形になりました。前向きになれるいいきっかけだったと思います」
平は、青学大のアンカー、一色が胴上げされるのを頭の上で両手を組みながら見ていた。悔しかったのだろう。優勝に手が届きそうだったことで、かえって悔しさが増している。
「4区の永山が2位に1分以上の差をつけた時は、『これは来たな』と思いました。でもそこから青学大を突き放せず、希望を持たせてしまいましたね。悔しいです」
手応えはある。しかし、番狂わせのチャンスを逸したことで悔しさがまさっている状態だ。