プロ野球亭日乗BACK NUMBER
“仕掛けずバント”の広島は怖くない。
崖っぷちの今こそ赤ヘル野球を貫け。
posted2016/10/28 13:25
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Hideki Sugiyama
「自分たちの野球」という言葉を、監督からも選手たちからもよく聞く。
シリーズ第5戦は日本ハム・西川遥輝の劇的サヨナラ満塁本塁打で決着。連敗スタートの日本ハムが本拠地で3連勝して、シリーズ制覇に王手をかけた。
一方、後がなくなった広島は再び地元に戻って赤に染まったスタジアムでの巻き返しを狙うことになるが、そこでもう一度、思い出して欲しいのが冒頭の「自分たちの野球」という言葉である。
今季の広島は強かった。
何が強さの秘密だったかといえば、そのベースにあったのは、単なる組織力ではなかったはずだ。投打に才能溢れる個の力をベンチが束ね、それを前面に押し出した攻撃的野球だったはずである。特に打線はシーズンを通して貫かれていたのがタナキクマルに“神っている”鈴木誠也らを軸に、エンドランや機動力を多用して、どんどん仕掛けていく積極的な野球だったはずだ。
ところがクライマックスシリーズ(CS)から日本シリーズと、緒方孝市監督のタクトから、その積極野球が影を潜めてしまっているように見えるのだ。
「奪う場面」で代打・松山竜平を使わず。
1つのサンプルが第5戦の同点で迎えた9回の攻撃である。
先頭の新井貴浩が右前安打で出塁すると、緒方監督はすかさず代走に足のスペシャリスト・赤松真人を送る。続く安部友裕が送りバントを決めて1点を取りにいく形を作った。ここまではいつも通りだ。
ベンチには代打の切り札である松山竜平がいた。だがこのいつもなら積極的に代打攻勢をかけていたはずの場面で、緒方監督は動かなかった。
8番の下水流昂にそのまま打たせて中飛。そしてこのシリーズ無安打の9番・石原慶幸もそのまま打席に立たせると見逃し三振に倒れて、せっかく作った「奪う場面」でその1点を奪えなかったのである。