野球善哉BACK NUMBER
甲子園の投手起用を改めて考える。
決勝は、全試合先発のエース対決。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/08/22 11:50
大会の15日間を通して全527球を投げ切った大西は、決勝戦終了直後、「最後までやりきったぞ」と元気にナインへ声がけしていたという。
エースの「いい状態」を求めた花咲徳栄の岩井監督。
エースをもっとも慮った采配を執ったのが、花咲徳栄の岩井隆監督だった。
エース高橋は、県大会6試合37イニングに登板して無失点。52三振を奪うなど、今大会の注目投手の1人に挙げられていた。
しかし大会に入ると、高橋の調子は県大会と比べて明らかに下降していた。
岩井は「ボール自体はそんなに悪くない。(打者への)攻め方の問題」と意に介さなかったが、1、2回戦を連続完投し、中1日で迎えた作新学院との3回戦で、岩井は高橋の先発を回避した。県大会で2試合に登板した2年生の綱脇慧を先発に選んだのだ。
ところが、これが完全に裏目に出る。
綱脇は2回もたずに7安打5失点で降板。それでも岩井は高橋をマウンドには上げず、2番手に清水達也を送ったが、こちらも3回までが限界だった。4回から高橋がマウンドにあがり、作新学院打線を5イニングを3安打1失点(自責0)に抑えた。
序盤の得点差が響いて敗退したのだから、結果論でいえば先発を間違えたということになる。しかしそこには、岩井監督の高橋に対する熱烈な想いがあった。
「今大会の高橋が、いいピッチングをしないままで終わらせたくなかった。どうすれば高橋の持ち味が出るのかを考えたときに、それは先発じゃないと思った。疲れもあって9イニングは厳しいから、精神的な負担を取り除いてやろうと。試合展開で早めの継投になってしまいましたが、でも高橋は最後に持っている力を発揮できました。僕自身がいい状態の高橋をみたかったので、最後は良かったのかなと思います」
自チームのエースが、一番力を発揮できる形で勝つためにはどうすればいいか。そこを第一に考えての選択だったのだ。結果が出なければ批判は浴びるが、その責任を背負ってでも、選手の身体を考慮する義務が指導者にはあるはずだ。
履正社と横浜は、温存が機能しなかった。
エースの温存が上手く機能しなかったのが、履正社と横浜だ。
履正社は3回戦の常総学院戦で、ドラフト候補でもある背番号10の山口裕次郎を先発に送った。横浜も2回戦の履正社戦で、エースの藤平ではなく石川達也を先発させた。
両チームとも、戦術的な理由での起用だった。
履正社は、大会トータルで投手起用を考えていたのだろう。常総学院を相手に山口がゲームを作った上で勝利を挙げることができれば、その先の戦いが非常に楽になる。エース寺島の負担を軽減しながら大会を戦うことができる、という算段だったはずだ。
横浜も、6イニングを越えると打ち込まれる傾向があった藤平のスタミナ面を考えて、石川を先発させた。だが、雷雨による2度の中断など運が味方しなかった。