野球善哉BACK NUMBER
甲子園の投手起用を改めて考える。
決勝は、全試合先発のエース対決。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/08/22 11:50
大会の15日間を通して全527球を投げ切った大西は、決勝戦終了直後、「最後までやりきったぞ」と元気にナインへ声がけしていたという。
エースの「先発したかった」という言葉はあるが。
このほかにも、近江は1回戦の常総学院戦でエース・京山将弥の先発を回避。深田樹暉を先発させ、2人の継投で勝利を狙ったが、大量失点で敗退した。
開幕戦では、佐久長聖の藤原弘介監督が、県大会で獅子奮迅の活躍をした塩沢太規ではなく、エースナンバーの小林玲雄を先発させたが2回までに3失点を喫し、そのビハインドが響いて2-3で敗れた。塩沢を最初から先発させていればと藤原監督の采配がやり玉に挙げられたが「小林の意地に賭けた。でも敗因は3失点の投手ではなく、2点しか取れなかった打撃陣。先発に関しては後悔していない」と語った。
後から指揮官の起用法に疑義を呈するのは簡単だ。エースの登板を回避して敗退したチームに対して、「先発したかった」とエースに言わせることで、悲劇仕立てのストーリーを描こうとするメディアもいた。
しかし、それぞれの起用には必ず指揮官の意図がある。その中には、迷いや後悔も隠れている。大事なことは結果だけで物事を見るのではなく、彼らが何を考えてその決断に至ったか、だろう。
岩井のような意図があれば、たとえ敗退しても意義のあることだし、むしろ、勝ったという結果だけで評価し、現実に目を向けない方が問題がある。
選手起用に、変化の兆しは見え始めている。
2006年から10年。高校野球の選手の起用に対して何かが変わったかと問われればNOに近い。しかし、変化の兆しが見え始めていることも事実だ。
今大会は好投手がそろった大会だった一方で、投手起用における勝利と疲労のバランスをとることの難しさが際立った大会だった。
そしてこれから10年、野球界はどこへ向かうのか。
甲子園で輝いた投手たちの未来を見守りながら、野球界の行く末を考え続けていく必要があるだろう。