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G1クライマックス、26年目の変貌。
優勝者ケニー・オメガのジェラシー。
posted2016/08/17 11:00
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
「予想外れたなあ。昨日はテレビ見てたよ」
8月14日、試合前。いつもの夏のように両国国技館の記者室に姿を見せたG1クライマックスの創始者、坂口征二さんは、優勝戦のカード予想がまったく当たらなかったことに触れて笑った。
オカダ・カズチカも棚橋弘至も内藤哲也もいないG1クライマックス優勝戦のカードは、昨シーズンのプレミアリーグのレスターの優勝くらいレアものだ。
英国のブックメイカーだったら、いったい何倍を付けたのだろう?
後藤洋央紀vs.ケニー・オメガ。
「8年ぶり優勝」か「外国人初優勝」か?
このカードを想定して、両国3連戦の最終日のチケットを買ったファンは少ないはずだ。
その証拠に両国の街には試合前も試合後も、内藤哲也の「Los Ingobernables de Japon」の黒いTシャツがあふれていた。まるで海外ミュージシャンの公演みたいだ。黒いシャツを見つけたらほぼ間違いない。ロゴに赤いカラーが入った決め技「Destino」バージョンも人気だ。
プライドを持って発言した「ガイジン」。
「ガイジンとして初めて優勝した」
オメガはこのことに敏感に反応した。
今では「ガイジン」をなんでも外国人と置き換えるのが常だが、プロレスにおいて「ガイジン」は差別用語ではない。彼らは自らプライドと自信をもって「ガイジン」とはっきりと発音するのだ。
自らをそう呼ぶこと、あるいは呼ばれることは、日本のプロレスの歴史にのっとってスターになったことを意味する。
あの“白覆面の魔王”ザ・デストロイヤーや“不沈艦”スタン・ハンセンといったレジェンドたちも好んで使う言葉だ。
「ファンに愛されるレスラーがいる。だが、次の人気者が現れるとその愛は簡単に捨てられる。見てみろよ。見ただろう。みんな“Los Ingobernables de Japon”のTシャツを着ているだろう。でも、お前ら、ちょっと前まで俺たち“Bullet Club”が好きだったんじゃないのか?」
オメガは、ジェラシーをむき出しにしていた。