リオ五輪PRESSBACK NUMBER
男子柔道、復権の全階級メダル獲得。
井上康生監督が変えた代表の空気。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJMPA
posted2016/08/13 15:00
言わずと知れたシドニー五輪金メダリストにして、天才の名をほしいままにした井上康生監督。男子柔道再建の任を見事果たしたといえるだろう。
「メダルをあまり気にしていない部分はあった」
全日程を終えて振り返る中では、こう語っている。
「メダルという目標はありますが、自分たちがやってきたことを精一杯出して戦ってほしいという思いで試合に送り出していました。だからメダルをあまり気にしていない部分はありました」
以前の代表は、このような雰囲気で臨んでいなかった。
金メダルを目標に掲げ、それに達しなければ選手への批判が飛び出した。また、ほとんどけなしているかのようにも感じられる言葉も少なくはなかった。
その根底には、反骨心を促そうと発奮させる意図があっただろう。ただ、それを伝え聞く選手たちは、ときに萎縮することもあったし、決して前向きに受け止めていないこともあった。
井上の数々の言葉は、以前とは真逆のスタンスだったことがうかがえる。
過去に処分を受けた高藤をとことん信じぬいた。
同時に井上は「選手をとことん信じる」スタイルも崩さなかった。
それはリオでの大会期間中に限った話ではない。監督就任後、その姿勢を貫いてきた。選手に寄り添おうとした。
象徴は2014年の世界選手権、高藤が規律違反から処分を受けたときのことだ。井上は「指導力の不足で、自分が情けないです」と頭を丸刈りにして、まずは自らを罰してみせた。
そんな井上の行動に、当事者の高藤も深く感じることがあったのは確か。その後、本人も取り組みや柔道に取り組む姿勢をあらためていった。