リオ五輪PRESSBACK NUMBER
男子柔道、復権の全階級メダル獲得。
井上康生監督が変えた代表の空気。
posted2016/08/13 15:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
JMPA
涙が止まらなかった。
「終わったな、と。自分自身をコントロールできなくなっているところが正直あります。今日においては、すばらしい選手たちと、すばらしいスタッフと、最高の環境で精一杯戦えたことの幸せの涙というか、またたくさんの方たちから応援していただいて、柔道を支えてくれた方たちへの感謝の涙なのかなと思います」
柔道男子日本代表監督の井上康生はしっかりと話しながらも、うつむき加減となって涙を止めることができなかった。
8月12日、柔道の最終日、100kg超級で原沢久喜が銀メダルを獲得した。男子は金2、銀1、銅4と1964年の東京五輪以来、52年ぶりとなる全階級でのメダルを達成した。
ただ前回の東京五輪当時は4階級しかなく、7階級となってからは初となる。しかも海外で柔道が広く普及した現状を考えれば、その価値はなおさら大きい。
「4年前は屈辱というか自分自身の無力さ、力のなさに悔しい思いをして涙したことを昨日のことのように覚えています」
高藤、海老沼、羽賀の銅メダルをねぎらう言葉の数々。
コーチとして参加したロンドン五輪では銀2、銅2にとどまり、「惨敗」「不振」と報じられた。
その後、井上は監督に就任し、再建を託された。今回の日本柔道の復活、躍進ともいえる成績を残せた理由はどこにあったのか。
その手がかりは、五輪期間中の言葉にある。
振り返れば大会初日から、どのような結果が出ても、選手の戦いぶりを語る井上の言葉は一貫していた。初日は金メダルの期待もあった60kg級の高藤直寿、2日目には66kg級の海老沼匡がともに銅メダルに終わった後、井上はそれぞれ以下の言葉を残した。
「負けた後はショックや怖さ、いろいろな葛藤がありますが、高藤は、銅メダルに向けて自分自身を奮い立たせていました」
「海老沼は最高のプレーヤーです。4年間、いろいろな苦労や困難と戦ってきたので、苦しみながら葛藤と戦い、よくここまでやってくれました」
そして、重量級金メダルの期待を背負っていた100kg級の羽賀龍之介の銅メダルの後もこう語った。
「羽賀は苦しみながら葛藤と戦い、よくここまでやってくれました」