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フロンターレがNASAと交渉する理由。
川崎市と作り上げる本当の地域密着。
text by
手嶋真彦Masahiko Tejima
photograph byMasahiko Tejima
posted2016/08/12 08:00
砂田(左)はフロンターレのJ2時代を知る筋金入りのサポーター。家族3人で年間シートを購入しており、今シーズンは福岡、新潟とアウェーゲームの応援にも駆け付けた。(右は天野)
補助金ではなく、企画ごとに徹底的に検討する。
誤解を避けるために、ここで強調しておこう。川崎市とフロンターレの連携は、なれ合いとは程遠い。天野はこう打ち明ける。企画を市に提案する際は、いまだに大きな緊張感があるのだと。なぜなら川崎市は、提案されたイベントや企画ごとに「どこまで役所がお手伝いするべきか、財政面を含めて、その都度職員が議論をしている」からだ。議論を尽くしたうえで予算化するか、見送るかを個別に決定する。「どうぞ自由に使ってください」というお金の出し方は一切していない。砂田の話はこう続く。
「年間いくらと額を決めて、補助金というかたちでポンとお金を渡す。そうするほうが役所は簡単だし、お金をもらうほうもラクですよ」
しかし、あらかじめ補助されるとわかっていたら、アイデアマンとして鳴らしてきた天野でも、さすがに企画を捻り出す努力を惜しんでいたのではないか。
「それもそうだし、市の職員たちとのネットワークが作れなくなりますよね」(天野)
フロンターレと川崎市は、お金だけでつながっているわけではない。企画をどうプレゼンし、どう説得するか、どう折り合いをつけるかなどに頭を使い、心を砕く。手間暇は余計にかかる。
「提案されたイベント単位で議論を尽くしていくのは、面倒と言えば面倒ですよ。でも、それが大事だよね、と」(砂田)
「受ける側にとっても、おんぶに抱っこはよくない」
天野が幸運だったのは、川崎市が“個別審査”に移行していくタイミングで、企画を持ち込みはじめたからだ。実はいまだに「お金だけ渡して、あとはお任せ」という自治体が少なくない。
「補助を受ける側にとっても、おんぶに抱っこみたいな従来型のやり方は改めたほうがいいんですけどね……」
砂田のこの話は、昨今の地域おこしの実態にも通じている。無為無策で補助金依存症に陥っている地域は衰退し、元気な地域は自助努力を怠っていないという話だ。
天野のもうひとつの幸運は、砂田の存在だろう。実を言えば砂田は、フロンターレの17~18年来のサポーターなのだ。それも家族で年間シートを買い続けてきた筋金入りの――。副市長としての砂田は、身贔屓と取られぬよう最大限慎重に、シビアに、天野からの提案を検討してきたに違いない。なにしろ税金を使うのだから、「市民の共感がどれだけ得られるか」のハードルをぎりぎりいっぱいまで引き上げてきたはずなのだ。