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フロンターレがNASAと交渉する理由。
川崎市と作り上げる本当の地域密着。 

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手嶋真彦

手嶋真彦Masahiko Tejima

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photograph byMasahiko Tejima

posted2016/08/12 08:00

フロンターレがNASAと交渉する理由。川崎市と作り上げる本当の地域密着。<Number Web> photograph by Masahiko Tejima

砂田(左)はフロンターレのJ2時代を知る筋金入りのサポーター。家族3人で年間シートを購入しており、今シーズンは福岡、新潟とアウェーゲームの応援にも駆け付けた。(右は天野)

川崎の平均観客動員は、2001年から伸び続けていた。

 少し噛み砕こう。川崎市の副市長を10年間務め、今年の3月に惜しまれながら退任を自ら選択した砂田は、「地域への愛着」と「地域の発展」の関係性を次のように説明してくれた。

「地域に愛着がなければ、そこを良くしていこうとは思いません。川崎こそ自分のまちだと認識して初めて、ここを良くしたいという気持ちが生まれるんです」

 天野が突拍子もない企画を携えて、砂田の前に現れるようになったのは、いまから10数年ほど前だ。フロンターレの1試合平均観客動員は2001年の3784人を底に、4年後の'05年は1万3658人、8年後の'09年にはほぼ5倍増の1万8847人にまで伸びた。等々力陸上競技場のメインスタンド改修には実現を求める22万人以上の署名が集まり、改修工事を終えた'15年の観客動員は2万999人と、ついに2万人を突破した。右肩上がりのわけを砂田に尋ねると、理由はひとつだけではないでしょうがと断りながら、こう評価した。

「フロンターレならではのイベントや企画の効果はあるでしょうね」

フロンターレへの愛着が川崎市への愛着につながる。

 風が吹けば桶屋が儲かる式の説明を加えるなら、天野が地域住民のサポーターを増やし、フロンターレへの愛着が市民意識を高め、川崎市の発展につながるという正の連鎖だ。“川崎都民”という言葉が存在する通り、川崎市にとって市民意識の向上は永遠の課題とも言える。「天野がサポーターを増やせば、市の発展につながる」のだとすれば、川崎市がフロンターレの成長を後押しするのは、理に適っているだろう。

 Jリーグが掲げてきた地域密着の理念を、はっきりとしたかたちにしているのが川崎市とフロンターレの相互補完関係だ。砂田は言う。

「市の職員に、市民をびっくりさせるようなイベントなどの発想は、なかなか求められません。その点、フロンターレさんの企画力には驚かされてばかりでしたから」

 天野はこう応える。

「市がお金と人を出してくれるおかげで、もともと片手間ではないイベントや企画を、より充実したものにできますからね」

【次ページ】 補助金ではなく、企画ごとに徹底的に検討する。

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