リオ五輪PRESSBACK NUMBER
諦めの悪い男、室屋成が帰ってきた!
コロンビア戦ドローを導いた精神力。
posted2016/08/10 16:00
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph by
JMPA
コロンビア戦、前半11分、室屋成が右サイドを駆け上がり、相手のタイミングをズラして中にクロスを入れた。興梠慎三が胸で落とし、矢島慎也がシュートを放つ。この試合、最初の決定的なシーンを演出したのは、室屋の突破とクロスだった。
「前に積極的に仕掛けた理由は、この試合は絶対に勝たないといけない試合でしたし、前回はああいう悔しい負け方をしたんで、ディフェンスラインの選手は絶対にこの試合で取り返してやろうという思いがあったので……思い切りいきました」
前回とは、リオ五輪の初戦ナイジェリア戦のことだ。4-5で敗れ、しかも5失点のほとんどがミスからだった。
室屋自身は前半10分、2点目の失点の際、相手選手とカブってしまい、こぼれたボールをそのまま決められていた。犯してしまったミスの重大さとショックで頭が真っ白になり、しばらく地に伏したまま起き上がれなかった。
「切り替えろ!」
キャプテンの遠藤航の厳しい声に、「うん、うん」と首肯いた。だが、その声はショック状態の室屋の心まで届かず、ミスを引きずったままになっていた。
それを見透かしたようにナイジェリアが続々と前に出てくる――。
「またミスするのでは」というネガティブな気持ちが動きを縛り、最初の1歩が遅れ、相手と当たる瞬間に力が抜けた。持ち前のアグレッシブな攻撃と粘り強い守備力が消え、室屋は自分自身を見失ってしまっていた。
初めてミックスゾーンを無言で通り過ぎた。
「何やってんだ」
前半終了後、ロッカーに戻る際、珍しくペットボトルを蹴り上げた。
失点につながるミスを犯し、その後も自分のプレーができない。イライラした気持ちをどう落ち着けるべきか分からなかった。
後半も前半のデジャブをみているようだった。
後半7分、突進してくるサディツク・ウマルのマークで塩谷司とお見合いし、後手を踏んで最終的に塩谷が倒してしまった。いつもなら真っ先に自分がアプローチしていたのに判断を誤り、足が一瞬止まった。試合の趨勢を決める4点目を奪われたことに大きな責任を感じた。
結局、室屋は最後まで「らしさ」を取り戻すことができなかったのだ。
試合後、室屋はプロになって初めて無言でミックスゾーンを通り過ぎた。
「あれだけDFラインが失点してしまい、試合後は整理がつかなくて……うまく言葉に表すことができなかったです」