ニッポン野球音頭BACK NUMBER
筒香嘉智が“セリフ”を気にする理由。
平凡なコメントは「超頭いい」ゆえ?
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byNaoya Sanuki
posted2016/07/29 07:00
鮮やかな弾道を横浜スタジアムのスタンドに放り込み続ける筒香。クライマックスステージ進出へのキーマンであることは間違いない。
「状態は……もっと打てるようにがんばります」
筒香はこの日の第2打席で17号ソロをかっ飛ばしたが、これは6月17日以来、実に39打席ぶりのホームランだった。その事実を踏まえて「今の状態は?」と尋ねるインタビュアーに、筒香はこう返したのだ。
「状態は……もっと打てるようにがんばります」
「状態は」のところまでの声のトーンでは、その後に「あまりよくない」といったニュアンスの言葉が続くように察せられた。だが、言葉は出る寸前に飲みこまれた。口にすべきでない、と筒香は判断したのだ。
ヒーローインタビューには続きがある。「ファンの夢を叶える」という球団企画のイベントでアナウンサーからマイクを譲り受けた一般男性が、こんな問いを投げかけた。
自分で勝手に作るストーリーにはまらないように。
――心の準備って一体どんな準備をされているか、アドバイスいただけますでしょうか?
筒香は真剣な表情で、こう語った。
「僕は、バットが出てこないとか、疲れてるとか、ここで打てなかったから点が入らなかったとか、そういう自分で勝手に作るストーリーにはまらないように、事実だけを見て、一球一球切り替えています」
何かをコトバにした瞬間、現実がコトバのほうにすり寄り、いつしか“ストーリー”の中に閉じ込められてしまう――その危うさを知るからこそ、「状態は」の先が喉元から出てくることはなかったのだ。
しかしなぜ、24歳の若さにして、そんな考え方をするようになったのか。