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フルイニング出場が危ぶまれる鳥谷敬。
臆病になれる男が秘める矜持と根性。 

text by

酒井俊作

酒井俊作Shunsaku Sakai

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photograph byNanae Suzuki

posted2016/07/15 07:00

フルイニング出場が危ぶまれる鳥谷敬。臆病になれる男が秘める矜持と根性。<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

前半戦終了時点の鳥谷の打率は.235。それでも四球数はヤクルト山田に次ぐ2位の61と選球眼は健在だけに復調が期待される。

クールな表情に隠された勝負へのこだわり。

 片岡コーチは言葉を継ぐ。

「35歳で10年以上、ショートを守っている。年齢を重ねると柔軟性や瞬発力がなくなってくるものやけど、この先、40歳までレギュラーを続けていくためにも、いま、このときを大切にしないといけない。もう1度、鳥谷らしいプレーをするためにもね。この時期を乗り越えんとあかんよね」

 感情たっぷりに派手なパフォーマンスでファンを沸かせるタイプではない。冷静沈着で、闘志を内に秘めるプレースタイルは、時として周囲には物足りなく映ってしまうこともあるようだ。だが、それは、さらっと表面をなでただけ。本当は違う。勝負へのこだわりは筋金入りだ。

 誤解を恐れずに言うなら、臆病になれる人だろう。その表現を伝えると「臆病というより心配性なんですよ」と笑う。そうなのだ。過酷なフルイニング出場を続けるのは、ある思いがあるからなのだ。

「ショートは自分以外の誰にも守らせたくない」

「一番はね、やっぱり他の人が出たら、自分がポジションを失ってしまう可能性がある。これが第一前提というか、一番なんです」

 レギュラーの安心感はまるでない。ナイター後、翌朝から球場へ。不動の地位を築いても、決して横着せず、油断しない。心のスキを見せれば、足元からすくわれる怖さを知っている。だから、どれだけ不振でも顔に出さず、骨折したときですら、そぶりも出さずにグラウンドに立ち続けた。

「人にチャンスを与えるということは、それだけ自分が長くできる可能性が少しずつ減る。調子が悪くなってきたら、代わりにアイツを出してみようという考えが監督やコーチに起こるかもしれない。体が悪いのならコイツを出そうとね。自分が逆の立場だったら、そう思います。だから、自分のなかでは、ショートは誰にも守らせたくないという気持ちがあるんです」

 阪神のショートは鳥谷自身が勝ち取った「足跡」なのだ。プロ2年目の'05年、藤本敦士(現阪神二軍守備走塁コーチ)を押しのけて定位置にしたあとは、誰も寄せつけない。10年以上、ほとんど1人で守り続けてきた。クールを装う振る舞いからはうかがい知れない、すさまじい勝負根性だろう。

【次ページ】 退かない姿勢を自らに課したがゆえの苦闘。

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