野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER

フルイニング出場が危ぶまれる鳥谷敬。
臆病になれる男が秘める矜持と根性。 

text by

酒井俊作

酒井俊作Shunsaku Sakai

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photograph byNanae Suzuki

posted2016/07/15 07:00

フルイニング出場が危ぶまれる鳥谷敬。臆病になれる男が秘める矜持と根性。<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

前半戦終了時点の鳥谷の打率は.235。それでも四球数はヤクルト山田に次ぐ2位の61と選球眼は健在だけに復調が期待される。

退かない姿勢を自らに課したがゆえの苦闘。

「どれだけ調子が悪くても自分で代えてもらいたいという思いはない。代えるという判断は監督がすることで『代える』と言われたら仕方ないですけど、自分はどんな状態でも『大丈夫です』と言って行くつもりですから」

 実は、このフルイニング出場への思いを聞いたのは数年前だが、ポリシーは、いまも貫く。

 かつてないスランプにも逃げずに向き合う。6月中旬から自己ワーストを更新する28打席連続無安打のトンネルに迷い込んだ。ある日、甲子園でのデーゲーム後、室内練習場には打球音がとめどなく響き渡っていた。生真面目さが売りの原口文仁が引き揚げても、まだ、乾いた音は鳴りやまない。そこでは鳥谷が一心不乱にバットを振っていた。周りには誰もいなかった。たった1人で、苦しみからはい上がろうとしていた。

 ある球団関係者は「一流は人前でやらない。隠れてやる。『お疲れさん』って言って、いつも先に帰るなって思っていても、実は家でやっていたりとか。トリもそうなんだよね」と明かす。

「出塁は最低限やらないといけないこと」

 そういえば、こんなこともあった。

 ある日の午前中、雨のため二軍が甲子園の室内練習場で練習していた。この模様を取材していると、偶然、遠くから様子をうかがう鳥谷と目があった。

「いま二軍がやっているよ」

 こう伝えると苦笑いを浮かべて姿を消した。スポットライトを浴びれば胸を張ってプレーする。必死さをまるで見せず、苦悩も感じさせない。孤高の生きざまが、ここにはある。

 前半戦を終えて1696試合連続出場に達し、遊撃手のプロ野球最長記録である連続フルイニング出場は662試合まで延びた。鳥谷は言う。

「悪いときは悪いなりに、しっかりやらないといけない。その中でも塁に出るというのは自分のなかで最低限、やらないといけないことだと思っている」

 野球に対する恐れがあるのだろう。臆病になれる人だからこそ、紡げる大記録がある。決して威張らず、それでいて、堂々と歩む。力を示せない者は脱落する勝負の世界。窮地に立たされた鉄人の矜持を見守りたいと思う。
 

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