球道雑記BACK NUMBER
“便利屋”オリックス原拓也の、
「脇役でもヒーローになる」勝負論。
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/05/17 10:30
ここ一番の打撃の切り札であると同時に、内野すべてのポジションで守備を務めた経験がある。頼りになるユーティリティプレイヤーだ。
常にベンチに置いておきたい「便利屋」。
内野ならどこでもこなし、故障者で抜けた穴を高いレベルで埋めてくれる。
堅実な守備力は度々、味方の投手陣を助け、ここ一番の場面で発揮する勝負強さは見ているものの記憶に残るものばかりだ。
常にベンチに置いておきたい「便利屋」として、原はもう何年もプロで飯を食ってきた。
前述の千葉ロッテ・西野から打ったタイムリーについて後日、彼に訊いてみると「便利屋」の彼らしい答えが返ってきた。
「野球やっている人ってみんなそうなんですけど、前のバッターまで相手投手の調子が悪くても、自分の打席のときはビシビシ来る、そんなときがあるんですよ。ですから僕は相手の投手の最近の調子については、あえて頭に入れないようにして、来た球をとにかく初球からしっかり叩けるようにと、その準備だけしているんです」
だからなのか、一打同点の場面で打席に入った原に変な力みは感じなかった。
「開き直って打席に入る」勝負強さ。
「あのときは2アウトで、自分がアウトになったら試合は終わりなので、西野投手の一番良い真っ直ぐに振り負けないようにいこうと考えていました。そしてタイミングさえ合えば、他の変化球でもしっかり振っていこうと……。あれだけの良いピッチャーなので、打てる球はそう何球もこないです。チャンスになるボールもあるか無いかだと思います。(代打は3回に1回打てたら一流)打てなくて当たり前。そこは開き直って打席に入りましたよ」
その言葉に彼の勝負強さを垣間見た気がした。
そんな原が代打で行く際に心がけていることがある。1つは初球から入っていけるように頭の整理。もう1つは試合の中盤からベンチ裏で行っている体幹トレーニングで体の準備をすることだ。
「自分なりに相手の投手像をしっかりイメージして。あとは打席でしっかり動けるように、1球目から振れるように準備しています」(原)
今年で32歳。まだまだ若手には負けられない。ただの中堅では終わらない男の意地がそこに詰まっているのだ。