球道雑記BACK NUMBER
“便利屋”オリックス原拓也の、
「脇役でもヒーローになる」勝負論。
posted2016/05/17 10:30
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph by
NIKKAN SPORTS
打率.833。
電光掲示板の表示がそれに切り替わった瞬間、スタンドがにわかにざわついた。
数字の正体は6打数5安打。
開幕まもない時期にはよく見かける、特別珍しい数字ではないのだが、ざわついたファンはもちろんその内容を知っていた。
4月23日、千葉ロッテ対オリックス戦。
9回表、味方が1点リードされた場面。8回裏に岩崎恭平と交代でセカンドに入ったオリックスの原拓也はそのまま打席につくと、千葉ロッテのストッパー西野勇士の甘いボールを見逃さず、右前へしぶとく運んだ。
価千金の同点タイムリー。
開幕から難攻不落とされてきたロッテブルペン陣にでっかい穴をあけた瞬間だった。
“普通の選手”。しかし常に重宝される。
明くる4月24日、今度は味方が1点リードを奪って押せ押せムードの6回表に原は代打で登場した。
オリックス・福良淳一監督もここが勝負どころと試合の中盤で躊躇なく「切り札」を投入する。
指揮官の原への信頼が窺えるシーンだ。
すると、原はこれに応えるようにジェイソン・スタンリッジが投げたボールに若干差し込まれながらも、ショートの頭上を越すタイムリーを放ち、結果としてこの1本がチームを勝利へ導いた。
はっきり言ってしまえば「誰でもが知っている」選手ではない。
特別に足が速いわけでも、特別に遠くへ飛ばす力があるわけでもない。言い方は悪いが普通の選手。けれども彼は、これまで所属してきた埼玉西武、そしてオリックスで常に重宝されてきた。