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「燃え尽きた」シーズンを経てなお、
黒田博樹が現役続行を選択した理由。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byHideki Sugiyama
posted2015/12/10 11:00
プロ19年目のシーズンに、前田健太、ジョンソンに次いでチーム3番目となる11勝を挙げた黒田。2月には41歳となる。
「燃え尽きた思いが。すぐに答えを出すのが怖かった」
「やっぱり苦しかった。自分なりに完全燃焼できた。充実した1年だった」
シーズン最終戦終了後、黒田が胸の裡を吐露し、さらにこう続けた。
「(来季について)こればかりは今の感情で決めるのは難しい。いったん、ゆっくり体を休めてから考えたい。毎年そういう形で決めているので。野球を続けるにしても、それなりの覚悟がいる」
“にしても”に、引退に傾いていた心情が窺える。
実際に後日、「燃え尽きた思いがあった。すぐに答えを出すのが怖かった」と振り返った。この1年にすべてをかけ、全精力を注ぎこんできたからこその言葉だった。
「来年やるにしても心の部分が大事になる。体を動かすのも気持ち。今年はなりふり構わぬ気持ちでマウンドに立った。来年同じ気持ちで立てるのか。(燃えるものを)探している」
黒田を現役続行へ突き動かすのは、心。
今季は「野球人生で最高のモチベーションで帰ってきた」。来年、奮い立たせるものは何か。本当に求められるだけのパフォーマンスを見せられるのか。気持ちは振り子のように揺れた。
ファンが待っているからこそ。
41歳となる来季への自信はない。毎年そうだった。不安をつぶしながら、新しいシーズンへ向けて気持ちとモチベーションを高めてきた。
年俸や個人記録は大きな問題ではない。ともに戦った仲間からも「来季も一緒に」という言葉をもらった。球団からも慰留された。広島には、待ってくれている人がいる。
目を瞑ると浮かんでくる。360度、真っ赤に埋め尽くされたマツダスタジアムから注がれる大歓声。自分の投球1球1球に熱狂し、そして歓喜する。1年前の決断は間違っていなかったと感じさせてくれる、1球の重みがあった。
12月8日。前日の交渉を経て、黒田は広島の鈴木清明球団本部長に電話を入れた。
「来季もやります」
シーズン最終戦から62日目。黒田が出した答えだった。
まだ明確な理由はないかもしれない。ただひとつ、黒田博樹が再びマウンドに立つということだけははっきりしている。