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バイエルンに大敗はむしろ好都合?
ドルトムントの王座奪還は長期計画。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAFLO
posted2015/10/05 16:00
バイエルンに惨敗したドルトムントと香川真司。しかし、彼らの復活への道は始まったばかりなのだ。
優勝が遠ざかったことがプラスに働く可能性?
結局、ドルトムントが講じたはずのバイエルン対策は、バイエルンにとっては中位以下の戦いで培ったものを発揮しやすい戦い方でしかなかった。結果論にはなるが、その点でトゥヘルの選択は失敗に終わった。
ただ近年にない大敗は、ドルトムントにとってポジティブな要因になるはずだ。
開幕前にヴァツケCEOは断言している。
「バイエルンが優勝候補の最右翼なのは明らかだ。我々は、まずリーグのトップ4に入る力を取り戻さないといけない」
今季のドルトムントは、リーグ戦の開幕からの5連勝を含めて公式戦11連勝を飾ったために、バイエルン王朝を覆す救世主のように祭り上げられた。
だが、昨シーズン7位に終わったチームが新たな監督を迎え入れたということを考えれば、彼らには、夢を見る前に取り組むべきことはたくさんある。最終目標は、もちろん数年以内に王座を奪還することであろう。
ただ、ドルトムントで一時代を築いたクロップでさえ、就任初年度はヨーロッパカップ戦の出場権さえ得られなかったし、リーグ優勝を果たすまでに3年かかっている。トゥヘルにも時間が必要だ。今回バイエルンと一気に差が開いたことで、逆に雑音にまどわされず、じっくりとチーム力を上げるという本来の目標にむかって仕事をしていける環境を手に入れたともいえるのだ。
それは、選手たちにとっても同じことだ。試合後に、香川は落ち着いてこう話した。
「改めて、個人の力の差を感じた、このままではいけない、と。上には上がいる。この負けを本当にしっかりとかみしめる。もっと、もっと、個人的にも成長しないといけない。フィジカルもスピードもすべてにおいて、特に彼らの前の3、4人とは圧倒的な差がありましたから。上を向いて、練習して、頑張るしかないですね」
この大敗を未来に生かすために。
6年ぶりとなる大敗を喫したことで、ドルトムントはバイエルンと優勝を争うという、現状とかけ離れた目標は捨てざるを得ない状況に追い込まれた。今は、謙虚にチームとして成長していくことにフォーカスしていくしかない。もちろん、バイエルンの優勝の可能性も一気に高まった。
ブンデスリーガの繁栄を考えれば少し寂しい感じも受けるが、これも未来の歓喜のストーリーを紡ぐためのプロローグになりえる。バイエルンが辛勝ではなく、大勝した意味は小さくないはずだ。
それはもちろん、ドルトムントにとってだけではなく、ブンデスリーガの今後の繁栄にとっても。