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選手会が高騰する移籍金制度にNO!
「外側」で利益を手にする者とは?
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2015/10/03 10:30
モナコから来たアントニー・マルシャルはもちろん有望な選手だが、69億円という移籍金には驚きの声があがっている。
サッカー選手もまた、労働者である。
前述の判決とルール制定により、契約の切れた選手は別のクラブへ自由に移籍できるようになった。しかしそれを防ぐための長期契約が主流となり、結果として違約金という形の移籍金が膨張を続けている。つまり、選手が職場を変えたいと思っても、クラブ間が合意しなければそれは実現せず、往々にして移籍金が障壁となっているのだ。
一方、一般の労働者が転職したい場合、雇用主とは別の会社や団体と自由に交渉し、実行に移すことができる。当然、その際に移籍金など発生しない。サッカー選手という職業だけ、どうしてこれが認められないのか。この点についても、現状の移籍システムは不当で違法なものとFIFProは訴えている。
資金力を持たないクラブは勝てない状態に。
また、超一流とは言えない選手にまで何十億円もの移籍金が動く「狂った世界」では、主要タイトルの可能性は莫大な資金力を持つひと握りのクラブだけに限られる。例えば、2010年以降のチャンピオンズリーグを制したのは、どこもメガクラブだ。かたや、財政規模の小さなクラブは、存続のために有力選手を手放さなければならなかったりする。このような競争の妨げも是正されるべき、とFIFProは考えている。
『「ジャパン」はなぜ負けるのか 経済学が解明するサッカーの不条理』の共著者で、サッカー界の経済に精通するスポーツ経済学者ステファン・シマンスキーは、FIFProに調査を依頼されて提出したレポートのなかで次のように分析した。
「現在の移籍市場は選手により多くの経済的かつ社会的な繁栄をもたらしたが、サッカー界のそれ以外の部分への恩恵は見出しにくい。現状の移籍システムは、トップ中のトップ選手を買えるエリートクラブの寡占を促進させるものだ。すなわち、これは選手に不公平なだけでなく、本来の目的とは真逆の方向に進んでしまっている」