スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
バルセロナ、今季唯一の“新戦力”。
ベルメーレン「昨季は最悪だった」。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2015/09/02 10:30
トーマス・ベルメーレンは、ベルギー代表に“黄金時代”をもたらしたメンバーの一員でもある。アヤックス、アーセナルという遍歴はバルセロナのスタイルにフィットする予感で満載だ。
「即戦力発言」で彼を獲得したSDともども窮地に。
そんな選手を獲得した張本人であるスポーツディレクター(当時)のアンドニ・スビサレッタは、入団会見の席でこう言い放った。
「彼は即戦力となる選手だ」
だが不運にもこの言葉は、後にベルメーレン本人はもちろん、スビサレッタ自身の首をも絞めることになる。
当初は「数週間で復帰できる」と言われていた太腿の負傷はなかなか完治せず、9月末にBチームの練習試合に出場したかと思えば故障が再発。さらに全体練習に参加しはじめた11月半ばにまた再発と、泥沼状態に陥っていった。
この時点で彼の獲得は失敗とみなされ、「即戦力発言」を大いに叩かれたスビサレッタは、ほどなくクラブを追われることになった。
結局12月にジョゼップ・グアルディオラやデイビッド・ベッカムも手がけたハムストリングのスペシャリスト、サカリ・オラバ医師の手術を受け、さらに4カ月の離脱が確定する。ようやく復帰に漕ぎ着けたのは今年の4月末で、既に優勝が決まっていたリーガの最終節デポルティーボ戦がプレーした昨季唯一の公式戦となった。
バルサは三冠を手にしたが、本人は……。
並行してチームは史上2度目の三冠獲得を成し遂げたわけだが、シーズンを通して1試合しかプレーしていない彼に、心から喜べる理由などあるはずもない。
「メダルはもらったけど、自分が三冠を勝ち獲ったと感じることはできなかった。チームや仲間の成功は嬉しかったけど、正直言って自分がタイトル獲得に貢献できたとは感じられなかったから」
今夏のプレシーズン中に行われたインタビューにて、彼は当時の心境を率直に明かしている。
「昨季はキャリア最悪の1年だった。新たなクラブにやってきて、チームメイトの戦いに加わることができないのは本当に辛いことだよ」