スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
バルセロナ、今季唯一の“新戦力”。
ベルメーレン「昨季は最悪だった」。
posted2015/09/02 10:30
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph by
AFLO
「ゴールを決めることに慣れていないので、どう喜べばよいか分からなかったんだ。試合に集中していたしね」
8月29日に行われたリーガ・エスパニョーラ第2節。昨季2度対戦して1分1敗、いずれも無得点に抑え込まれたマラガをホームに迎えたバルセロナは、この日も相手の堅守に苦しみながら、73分にイドリス・カメニが守るゴールをこじ開け、1-0で勝利を手にした。
この値千金の決勝点を決めた直後、トーマス・ベルメーレンはまるでゴールが取り消されたかのように、喜ぶそぶりを見せず淡々と自陣へ戻ろうとしたところでチームメートに取り囲まれていた。
だが試合後のコメントにある通り、どうやら久しぶりのゴールだっただけに喜び方を忘れてしまっただけのようだ。
移籍から1年を経て、ようやくバルサの一員に。
「新チームでの初ゴールは、いつだってナイスなものさ。今日は困難な試合だっただけに、先制点を決められて嬉しかったよ」
「スペイン語は上達しているけど、まだうまく話せないから」と英語で受け答えしていた試合後のミックスゾーンでも、初ゴールの喜びを語る彼の口調はやはり淡々としたものだった。しかし、次の言葉には重みがあった。
「みなが知っているように、ここに至るまでは簡単ではなかった。今夏のプレシーズンは自分にとって重要だった。自分の価値を証明する機会を与えてくれた監督には、本当に感謝しているんだ」
その言葉通り、バルサ移籍からマラガ戦の初ゴールまでの道のりは長く険しいものだった。
昨年夏、ベルメーレンはワールドカップ中に痛めた腿の故障を抱えたままバルサに入団した。それ以前からケガ続きで、前年のプレミアリーグ出場14試合にとどまっていた28歳(当時)のセンターバックには、獲得時から疑問の目が向けられていた。