野球善哉BACK NUMBER
強豪校が初出場校に次々敗れ――。
甲子園の新たなる時代を感じた時。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2015/08/13 16:30
天理vs.創成館での9回裏。創成館は2死三塁から右前にサヨナラ打を放った。右手前は天理の投手として先発した冨木。
「攻める野球」は、あらゆる局面での積極性にある。
攻撃面においても、津商は攻めていた。
4回表の2死一、二塁で、ダブルスチールを敢行。これも失敗に終わるのだが、宮本監督は「攻めの姿勢を見せることで、県大会から自分たちがやってきた野球を続けるんだというメッセージを出す作戦でした」と話している。
6回表、津商が勝ち越した場面は、2死二塁から中前適時打だった。打者の栗谷太智の打球は鋭く、智弁和歌山の中堅手・野口が前がかりの守備陣形を取っていたので本塁突入は暴走に思えたが、これを中堅手の野口が大暴投。津商は勝ち越しに成功している。
ただ打つことをもってして「攻める」のではなく、積極的に仕掛けていくことを「攻める」とした。
津商の戦い方は、徹底していた。
智弁和歌山の守備の破たんは、この「攻め」に臆したからにほかならなかった。
これは一つに、「智弁和歌山」という強豪校のブランドが、以前ほどではなくなっていた証といえるかもしれない。その名前だけでは圧倒されない、という。
強豪校に怖気づかない、新たな世代の台頭。
それは、同じ近畿の強豪・天理にしても同じことがいえる。
夏初出場の創成館と対戦した天理は、2-2の緊迫したゲームを展開しておきながら、9回裏にサヨナラ負けを喫した。
天理は結局のところ無失策だったわけだから、強豪校らしい洗練された戦いぶりだったことが分かる。しかし、相手の創成館がまったくと言っていいほど、天理を恐れていなかった。特に、2点を先行されながら、すぐに追いついた4回裏以降は、むしろ初出場の創成館の方が主導権を握っているようにさえ見えた。
創成館の指揮官・稙田龍生は「(天理が)強豪校だという意識はみんな持っていますよ。でも、うちのチームは甲子園で勝ったことがないチームという中、その初勝利が強豪の天理ということになれば、新しい歴史を刻むことになると選手たちと話していましたので」と語っている。
捕手で主将の大田圭輔はいう。
「天理は強豪という意識ではいました。でも、同じ高校生なので、という気持ちでも戦っていました」
今年の天理に、苦しいチーム事情が浮き彫りになっていたのも紛れもない事実だ。特に、投手陣にそれは明らかだった。