プロ野球亭日乗BACK NUMBER
東北楽天で打撃コーチが辞任。
球団オーナーが現場介入したら……。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2015/08/07 11:50
球団経営陣と現場に挟まれ、まさに中間管理職の苦労を背負うことになった大久保監督。
田代富雄打撃コーチの辞任。
試合前に大久保監督が先発オーダーを作ると、必ずそれをオーナーにファックスで送るのが決まりで、それを見たオーナーが赤ペンを入れてくるという。しかも、試合中にも選手交代、代打の起用などを電話で指示してくる。その事実がコーチ陣だけでなく選手の間にも広まって、現場は不信感で揺れている。
三木谷オーナーのよく指名する若手選手には「オーナーの子供のお気に入りらしい」などといった馬鹿げた噂までがささやかれるほどの混乱ぶりだった。
そんなチームの現状が白日の下にさらされたのが、7月30日に発表された田代富雄打撃コーチの、異例のシーズン中の辞任劇だったわけである。
この辞任、表面上はチームの打撃不振の責任をとってということだが、実際にはオーナーの現場介入に堪忍袋の緒が切れた田代コーチが「やってられるか」とケツをまくったというのが真相だった。
そりゃそうである。
毎日毎日グラウンドに立ち、何十年もかけて積み上げてきた経験と学んできた知識を、たった1本の電話で否定されれば、それは頭にくるというものだ。しかも、野球をちゃんと分かっている人物からの意見ということなら百歩譲るとしても、現場のことを知らずにデータをこねくり回しただけの意見となれば、無力感を持つのは当たり前のことである。
セイバーメトリクスだけでは試合に勝てないという道理。
『マネーボール』で注目されたセイバーメトリクスという統計学的手法が、あたかも野球のバイブルのようになり、それで誰でも試合の采配ができるという勘違いを生むようになっているのではないか――まさに気分はビリー・ビーン、気分はブラピといったところだろう。
今は多くのチームが、“ベースボール・オペレーション・システム”というセイバーメトリクス系のデータなどを集積した選手の評価システムを導入し、それに基づいてチーム作りや運営を行っている。
統計学上の選手の特長や、対戦相手との相性などが詳細に数値化されており、チーム作りだけでなく、日々のゲームでも有効に活用できるデータベースになっているのである。これまでの経験主義からだけのスカウティングや戦略、戦術と比べると、合理的で新しい手法として評価されるべき点は多くある。
ただ、それでもこれらのデータはあくまで参考資料でしかないのである。日々の試合での采配や選手起用を決定していく中で、完全な裏付けにはなりえない。それはなぜかというと、選手のコンディションや打撃の状態は日々刻々と変化しているからだ。そしてその変化を毎日現場で把握して決断を下すことこそが、勝負の大きなポイントを占めているからである。