左足のシュートありきではなく、チームが最優先。

　意外だったのは、田中にとって「オリジナリティ（個性）」の序列が低いということだ。順番でいうと6位か7位。「フィジカル」と同等扱いにしているものの、「フィジカルで潰されてしまったら、自分の武器なんて出せない」ということも口にしており、実質的には7位に位置している。

「僕にとっての評価基準は、得意の左足でどれだけ結果を出しているかというより、どれだけチームに溶け込んでいるか。左足1本ですべての状況が打開できるわけはないですし、左足のシュートも適当に蹴れば入るものではなくて、周りとの連係が整ってようやく活きてくる。だから自分の中では、まず左足のシュートありきではなくて、チームありき。味方とのコミュニケーションがとれていることをもっと見せていかないと、スタメンの座を勝ち取ることができないと思っています」

　言葉どおり、昨シーズンは田中が左足のミドルシュートでネットを揺さぶったシーンは一度もなかった。たとえ強烈な武器を持っていても、いくらボールコントロールが優れていても、それを表現するチャンスを与えてもらえなければただの宝の持ち腐れでしかない。そのことを、この1年間で田中は身をもって知らされた。

サポーターからの対応を一変させたフリーキック。

　ちなみに唯一、遠目からシュートを決めたのは1月11日のスポルティング・ブラガ戦。スコアレスで迎えた後半ロスタイムに、得意の左足で直接フリーキックを叩き込んだ。

「後半34分から途中出場してラストワンプレーというときにフリーキックのチャンスを迎えた。普段はナニが蹴るんですが、『ここは俺に蹴らせてくれ！』とお願いしたら、あっさり認めてくれた。おそらくスタメンでずっと出場していたから疲れていたのかな。これを入れなければ、この先はないと思っていた。絶対に決めてみせると思っていたし、決める自信もあった。スピードもパワーも軌道もパーフェクトでしたね。ゴールを決めてあんなに興奮したのは久しぶりですね」

　あくまでフリーキックは飛び道具にすぎないが、ポルトガルに来てはじめて翌日の新聞の一面を飾ることができた。上位チームとの直接対決は大きな注目を浴びる。そこで劇的なゴールを決めた田中はその日以降、サポーターから笑顔で声をかけられることが多くなったという。

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