オフサイド・トリップBACK NUMBER
プレミアを去るアイコン、ジェラード。
彼がトロフィーの代わりに得たもの。
posted2015/05/29 10:50
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph by
Getty Images
「最後の最後まで、こんなシナリオが待っているんだな」
スティーブン・ジェラードのプレミアにおける最後の舞台。アウェーでのストーク戦を見ながら、ぼんやりそんな感想を抱いた。リバプールはなんと1-6で敗北。後半25分にはジェラード自身が一矢報いたものの、レジェンドの花道を飾る内容にはならなかった。
それどころかチームは前節、アンフィールドでのシーズン最終戦でもクリスタルパレスに1-3で敗れていたため、トッテナムにも抜かれて6位に後退。ブレンダン・ロジャーズ監督の身辺さえ、にわかに慌ただしくなっている。
だが、ある意味では「らしい」幕引きでもあった。というのも、ジェラードはどことなく薄幸いキャリアを歩んできた選手だったからだ。それはリバプールという港町に漂う、うら寂しい雰囲気にも似ている。
「イングリッシュ・フットボール」を象徴する選手。
「プレミアリーグ」。この単語を耳にした時、多くの人が思い浮かべるのは、世界最高峰のリーグとしての華やかなイメージだろう。
TV局との契約によってもたらされる、うなるほどの放映権収入。世界中からかき集められた綺羅星のごときスーパースター。美しい緑のピッチと、90分間合唱を続ける情熱的なサポーター。プレミアは人の心を惹き付けずにはおかない魅力に溢れている。
そしてこれらの要素にも増して特徴的なのは、目まぐるしく攻守が入れ替わるスピーディーでスリリングな試合展開だ。典型的なボックス・トゥ・ボックス型のMFで、火の出るようなミドルシュートを放つジェラードは、「イングリッシュ・フットボール」を象徴する選手だったと言っていい。
'05-'06シーズンのFAカップ決勝、ウェストハム戦におけるプレーなどは最たるものだ。ジェラードは1アシスト2ゴールの活躍を見せているが、敗色濃厚な試合終了直前に決めたロングレンジのダイレクトボレーシュートは、自身がベストゴールにも選んでいる。
同様にジェラードについて指摘できるのは、類いまれなるリーダーシップだ。彼の愛称は「キャプテン・ファンタスティック」。クラブ史上最高の主将だったと口を揃えるのは、現在クラブに所属しているメンバーだけにとどまらない。
2005年5月、イスタンブールで行なわれたACミランとのCLファイナル。前半0-3でリードされながら、ヘディングシュートで反撃の狼煙を上げたのは、やはりジェラードだった。両手でスタンドを煽るような仕草をし、もっと自分たちに力をくれとサポーターを鼓舞したシーンは今も記憶に鮮やかだ。