オフサイド・トリップBACK NUMBER
プレミアを去るアイコン、ジェラード。
彼がトロフィーの代わりに得たもの。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2015/05/29 10:50
来季からはかつてベッカムも所属したロサンゼルス・ギャラクシーでプレーすることになるジェラード。
お土産にラジコンを受け取ったジェラードは……。
ジェラードはイングランドのフットボールをとことん愛し、魅力を体現した選手だった。そして我々は、そんなジェラードをこよなく愛した。キャラクターも含めてである。
これらの会話はインタビューのごく一部、しかも要約だが、取材に立ち会ったスタッフは会話の密度とコメントの豊かさ、ジェラードの率直な語り口調に感心しきりだった。この日ジェラードの口がいつにも増して滑らかだったのは、彼が実際に持っているスポーツカーを模したラジコンを、取材前に渡したことも効いていたのかもしれない。
ラジコンを受け取った瞬間、リバプールのレジェンドは子供のような表情に変貌。透明のパッケージから銀色の車体を取り出すと、「どうやってスイッチを入れるんだい?」、「電池交換は?」と事細かに尋ねてきた。
ジェラードほどの高給取りならば、この種のオモチャなど何十万台でも買い占められる。だが彼はよほど気に入ったと見えて、固い握手を交わした後、「チアーズ・メイト! サンクス・フォー・ディス(どうもね。これ有り難う)」と言いながら、透明のパッケージと本体を大事そうに持って去っていった。
ところが取材の帰りしな、インタビュールームを出てみると、物陰に透明のケースだけがこっそりと置かれている。ラジコンを箱に戻そうとしてみたものの、うまく収まらないために諦めたに違いない。こんなあたりも、いかにも庶民派らしくて微笑ましかった。
トロフィーの代わりに彼が得た別の栄誉とは?
個人的な願望だけで言えば、ジェラードにはラジコンではなく、プレミアの優勝メダルをプレゼントしたかった。そうすれば彼は今頃、自宅にしつらえたミュージアムのように豪華なキャビネットの前で、3人の娘たちや地元の幼なじみ相手に、武勇伝を幾度となく語り聞かせていただろう。
しかし喉から手が出るほど欲しかったトロフィーが取れない代わりに、彼は別の栄誉を得た。記録以上に、人々の記憶に残るフットボーラーとしての称号である。
ジェラードよ、願わくば大西洋の向こう側では、幸多いキャリアを歩まんことを。そしていつの日にか地球上のどこかで再会し、君が愛して止まないイングランドのフットボールについて、もう一度語り合わんことを。