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谷繁監督がついに決断した若返り。
全力で走る中日が帰ってきた!
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/05/03 11:00
昨シーズンまではソフトバンク二軍どまりだったのが、新天地で才能を開花させた中日・亀澤恭平。明るい性格のムードメーカーで、ベンチまわりでのパフォーマンスもファンの間で話題だ。
育成契約したSB、そして支配下契約した中日の慧眼。
この29日の試合、亀澤は守備でも魅了した。5回裏、1死一塁の場面で代打出場した長野久義のセンター方向に抜けようかという強烈な打球を倒れ込んで好捕すると、二塁ベースカバーに入ったエルナンデスに落ち着いてグラブトスし、4-6-3の併殺を完成させた。うまいのはもちろんのこと、それ以上に亀澤のプレーはナインの気持ちを鼓舞する。
一塁到達タイムは30日の試合で4.3秒未満を2度計測した。第2打席二塁ゴロの3.88秒、第3打席バント安打の3.74秒で、この3連戦で誰よりも速く走った。バント安打は0-3とリードされた6回、無死二塁の場面で決め、次打者・平田の3ランを引き出しているので価値は高い。4月30日現在、盗塁数はチームナンバーワンの5個を記録(失敗は2)、成功率は7割を超えている。
亀澤の経歴は地味だ。岡山県の作陽高校から環太平洋大学へ進み、ここから独立リーグの四国アイランドリーグ・香川オリーブガイナーズに入団。2011年の育成ドラフトでソフトバンクから2位の指名を受け、支度金300万円、年俸400万円でプロ入りした。
大学4年だった2010年11月13日の明治神宮大会1回戦、亀澤は神奈川大戦で2番・遊撃手としてスタメン出場し、3打数2安打(1四球、1バント)している。バントのときの一塁到達タイムは3.95秒、第4打席の内野安打のときの一塁到達タイムは3.83秒と現在のプレースタイルを予感させているが、そこまでの存在感はなかった。その亀澤を育成ドラフトとはいえ2位で指名したソフトバンク、そして育成契約更新のスキをつくように支配下選手として獲得した中日はさすがである。
35歳以上が揃うチームで、谷繁監督の決断が。
中日のシーズン前の評価は芳しくなかった。私もBクラスを予想し、亀澤のレギュラー奪取など想定外がいいところで、一軍でのプレーさえ予想しなかった。亀澤だけではない。福田、松井佑はもちろん、高橋、松井雅のこれほど早い一軍起用も考えなかった。
35歳以上のベテランの主力が、投手陣では雄太(35歳)、山井大介(37歳)、バルデス(38歳)、川上憲伸(40歳)、岩瀬仁紀(41歳)、山本昌(50歳)。野手陣でもルナ(35歳)、森野将彦(37歳)、荒木雅博(38歳)、小笠原道大(42歳)、和田一浩(43歳)、谷繁元信(45歳)と名をつらねる。こういうベテランが並ぶ布陣に谷繁兼任監督は危機感を覚えたのだろう。
和田の2000本安打挑戦(残り15安打)、山本昌の最高齢記録など、配慮しなければならない面はあってもチームの将来にきちんと目を配り、若手・中堅の抜擢に踏み切った。勝率は依然として5割のラインを行ったり来たりしているが(4月30日現在、15勝15敗で4位)、若手・中堅の元気が続く限り、序盤の勢いを取り戻すことは十分可能。中日に元気があるとセ・リーグのペナントレースは面白くなる。