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C・ロナウドが12試合で20ゴール中!
「生ける伝説」を生む、稀なる環境。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byAFLO
posted2014/12/01 10:30
メッシの記録を大幅に上回るペースでゴールを量産するC・ロナウド。
マルチロールとスペシャリストの共存策。
アンチェロッティは、ミランの監督時代から可変システムを用いてきた。俗にツリーシステムと呼ばれる4-3-2-1の「2」の一角に据えた切り札のカカを最前線に移動させ、4-4-2フラットへ移行した。2列目でカカと並んでいたクラレンス・セードルフを左のワイド、3ボランチの右に入るジェンナーロ・ガットゥーゾを右のワイドに張らせ、サイドの攻防で後手に回らず、カカの持ち味も殺さない仕組みをつくったわけだ。4-4-2フラットを採用し、当時両ウイングの突破力をベースにしていたマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)や、3トップの両翼に強力なアタッカーを擁したバルセロナ(スペイン)との対戦で、この可変システムから勝機を探った。
戦術面での広がりを求めたという以上に、複数のマルチロールを動かしてスペシャリストの天才を最大限に引き出すのが、アンチェロッティの狙いと言っていい。個性の際立つタレントに「無理強い」をしてもロクなことにならない。イタリア人監督はそう考えているのだろう。
実際、アンチェロッティの周辺からスター選手との不和が聞こえてくることはまずない。システムありきではなく、各選手が心地よくプレーするための環境づくりを優先する。そうした指揮官のスタンスが、ポルトガルの巨星をさらに高みへと引き上げる契機となったのは確かだろう。
バルセロナ型では、ここまでゴールを決められない。
今季、相性抜群のディマリアを移籍によって失ったが、コロンビアの至宝ハメス・ロドリゲスやドイツの天才トニ・クロースら新戦力とのケミストリー(化学反応)がプラスに働いている点も見逃せない。
最前線でペアを組むカリム・ベンゼマを含め、C・ロナウドの決定力を十全に引き出す“利他的”なパーソナリティーの持ち主が脇を固めている。とりわけ、頼もしい相棒へ脱皮したベンゼマが、希少なアシスト感覚を有しているのも大きなメリットか。さらにベイルを含めた「速さ・高さ・強さ」といった共通点も、フィニッシュのアプローチに関するイメージを共有しやすい一因ではないか。
速さを生かすカウンターアタック、高さを生かす鋭利なクロス――。C・ロナウドの強みが最大化するスタイルだろう。逆に精緻なパスワークから密集を突くバルセロナ型のデリケートな攻め筋ならば、ここまでゴールを量産できたかどうか意見が分かれそうだ。