スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
メッシが初めて語った移籍の可能性。
本人の「幸せ」こそがファンの望み。
posted2014/12/03 10:50
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph by
AP/AFLO
3-1で迎えた後半27分。ゴール前左でメッシのパスを受けたネイマールが、飛び出してきたGKを引きつけ、右足アウトでファーポストにラストパスを送る。そこに猛然と駆け込んだメッシが自身の体ごとボールをゴールネットに押し込んだ瞬間、半世紀以上も守られてきた偉大な記録がとうとう破られた。
バックスタンド中央の電光掲示板に「MESSI」「SUPERA(超える)」「ZARRA」の文字が映える。7万8千人超の観衆は総立ちとなり、ある者は拍手を送りながら、ある者は神にひれ伏す仕草を真似ながら、彼の名を連呼する。そしてピッチ上では試合中にもかかわらず、チームメートたちに抱え上げられたメッシが笑顔で数回宙を舞った。
セビージャを5-1と粉砕した11月22日のリーガ・エスパニョーラ第12節。この日メッシは3戦不発の鬱憤を晴らすハットトリックを実現し、59年前にテルモ・サラが15シーズンかけて築いたリーガの通算最多得点記録をプロデビューから約10年のうちに、27歳の若さで更新した。
試合後間もなく、スタンド上部のスクリーンに自身へのトリビュート・ビデオが映し出されると、仲間たちに囲まれたメッシは終始笑顔を絶やさぬまま、照れ臭そうに思い出のゴールシーンを眺めていた。
その光景を目の当たりにした人々はみな、改めてこう思ったことだろう。メッシなきバルサなど想像することはできない、と。
初めてメッシの口から示唆された、移籍の可能性。
だがその僅か2週間ほど前、メッシは代表合流中に行なったインタビューにて、バルセロニスタを震撼させる発言を行っていた。
「今は現在だけを生きている。良いシーズンを送り、バルサが望んでいるタイトルを勝ちとることだけを考えてね。それだけだよ。先のことはそのうち分かる。フットボールの世界では状況が激しく移り変わっていく。いつまでもバルセロナに残りたいと常に言ってきたけど、全てが望み通りにいかないことも時にはあるんだ」
「何度も言ってきたことだけど、自分で決められるのならば常にここにいたい。でも前に言った通り、常に全てが自分の望み通りになるわけじゃない。状況の移り変わりが激しく、様々な出来事が生じるフットボールにおいてはなおさらね。難しいよ、今のバルセロナの状況下では特にね」
メッシが移籍するという噂自体は、イングランドのタブロイド紙を中心に1年以上前から度々報じられてきた。だが公に本人の口からその可能性が示唆されたのはこれが初めてのことだ。
「レオはバルサに満足している。だがもちろん、明日にでもクラブから“こんなオファーが届いた。我々は彼を売りたい”と言われたら検討しなければならない。現時点でそんな考えは全くないがね」
その翌日にはメッシの代理人を務める父ホルヘが移籍の意思を否定するコメントを発したものの、そこからもメッシの発言と同様の“含み”が感じられた。