プロに入って3年、楽しさを感じて投げられなかった。

　記者から「何点だった？」と自己採点を求められると、少し困惑した笑みを見せながら、はっきりと「0点じゃないですか」と言う。

　不完全燃焼のトライアウト。いや、それ以前に、わずか3年のプロ野球生活で納得したことなど一度もなかったのだろう。伊藤の回想が、それを如実に物語っていた。

「なんて言ったらいいんですかね……。言葉にするのは難しいですけど、プロに入ってから、今日もそうでしたけど楽しさというか、そういうものを感じて投げられることはなかったですね。それは、自分の力を発揮できなかったからってことなんでしょうけど、そういうモヤモヤした気持ちがずっとありました。理想が高かったのかなぁ」

　常に高みを目指し、邁進するのはプロとして当然である。

　しかしながら、伊藤の潜在能力を知る人間からすれば、3年で戦力外になったという現実はにわかに信じがたいものだった。

帝京高1年の時に出した「148km」が伊藤を苦しめた。

　東練馬シニア時代から注目される逸材だった。中学3年の進路を決める頃になると、各地の強豪校が「帝京にすごいピッチャーが入るらしい」と悔しそうに話していたものだ。

　事実、その力はすぐに証明された。

　帝京高校1年の夏。甲子園で彼が見せたパフォーマンスは、衝撃のひと言に尽きた。

　148km――。

　3回戦の九州国際大付戦で叩き出した、1年生では甲子園史上最速となるそのストレートに周囲は色めき立った。「大会でもナンバーワンかもしれない」とプロのスカウトが太鼓判を押し、新聞、テレビ、雑誌などもニュースターの誕生を「スーパー1年生」などと大々的に報道した。

　当時の伊藤の魅力は、スライダーではなく力のあるストレートだったのだ。

　しかし結果的に見れば、1日にしてシンデレラボーイへと駆け上がらせた最大の要素である「148km」が、その後の伊藤を苦しめてしまったこともまた、事実なのである。

　1年の夏以降、伊藤のパフォーマンスは徐々に低下の一途を辿っていく。

　2年のセンバツは2試合19回を投げ、最速も147kmとまずまずの投球を演じることができたが、その後、フォームを崩した。

　3年の夏は初戦の花巻東戦に登板し、最速145kmをマーク。しかし、5失点を喫し4回途中で降板、高校最後の試合となった八幡商戦ではマウンドに立つことはなかった。

【次ページ】　ルーキーイヤーにはプロ初ホールドを記録したが……。