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<独占公開、W杯の真実> 矢野大輔・ザックジャパン通訳日記 ~コートジボワール戦の敗戦を受けて~
text by
矢野大輔Daisuke Yano
photograph byHirofumi Kamaya
posted2014/10/16 11:30
本田の先制弾でチームのムードは最高潮だったが……。
キックオフ。前半16分、圭佑の先制弾でチームのムードは最高潮に。しかし、ベンチからはしきりに左サイドの香川、長友に修正の指示を送る。また、圭佑と大迫(勇也)が相手ダブルボランチにプレスを掛けて精度の高いパスを消そうとしていたが、狙い通りにいかず、チームの重心が下がってしまっていた。
ハーフタイム。監督の指示。
「横パスを奪われてカウンターを食らっている。イージーに取られないこと。圭佑とサコ(大迫)は、高い位置から相手ダブルボランチを押さえ込んでショートカウンターを狙ってもいいが、それは後ろも連動できる距離にいる時に。チーム全体のバランスを意識しよう。そして相手SBを高い位置でプレーさせない。全員でやるぞ!」
圭佑が、「ビビんないで攻めよう! パスいくつかつなげば全然チャンスできてる。あいつらもここで攻められたら苦しくなる。1点取られてもいいから、うちは追加点を狙っていこう。やってやろう!」と鼓舞する。長谷部の「受け身に回ったらやられるぞ!」の掛け声とともに後半へ。
静まり返るロッカールーム。
10分経った時点で長谷部→遠藤(保仁)の交代をすることは事前に決めていた。60分過ぎ、大迫の代わりに大久保(嘉人)を呼ぶが、一度考え直す。香川に代えて今野(泰幸)、長友を1列前の左MFに上げようと検討するが、“守ろう”という本意ではないネガティブなメッセージを発信してしまうのではと懸念して実行には移さなかった。その後試合は、似たような形で2点奪われて、大事な初戦を1-2で落とした。
静まり返るロッカールーム、バス、そして食事会場。まだ2試合ある、終わってなんかいない――誰もがそういう思いを抱えながらも、自重気味に各自部屋へ戻っていく。
そんな中、圭佑だけが“まだ大丈夫”と心の底から信じているのか、冷静にゲームについて話していた。そのメンタルの強さに感心せざるを得なかった。
「厳しいな。でも上を向け」と、うつむいていた僕の肩を叩きながら話し掛けてきた監督。慌てない。動じない。
「今はしっかりと充電しなければならない。ここからどう盛り返すか。真価が問われるな」
試合を終えて監督は、なぜチームがこの大一番でいつものように積極的なプレーが90分間徹底できなかったのか、その理由について考えを巡らせているようだった。
皆の気持ちはただ一つ。最後まで絶対にあきらめない――。