プロ野球亭日乗BACK NUMBER
巨人・菅野智之、2年目の挫折と復活。
在りし日の原貢が語った「原家の血」。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2014/09/29 11:30
菅野智之、ルーキーイヤーにあげた13勝まであと1つ。そしてそれは、ハーラートップを走るメッセンジャーに並ぶ勝利でもある。
不振、故障、そして初めてのファーム。
7月は4試合に登板して1勝2敗。この間の防御率は6.12という不振ぶりだった。フォームが乱れ最大の武器である制球力が安定せず、打ち込まれることが続いた。
7月16日のヤクルト戦で右手中指に違和感を感じ、その後もオールスターを含めて3試合を投げたが、痛みが引かなかった。8月1日の広島戦で先発6回を投げたときに状態が悪化。4日に精密検査を受けた結果、右手中指の腱の炎症で、すぐに登録を抹消された。
当初は2週間程度で戦列復帰できると思われたが、調整途中で腰をひねるアクシデントもあり、復帰までほぼ1カ月の時間がかかってしまった。
「プロに入って初めてのファームでした」
菅野は振り返る。
毎日、早朝にジャイアンツ球場にやってきて、走り込みや下半身中心の強化運動をこなした。ファームの選手とともに汗を流し、改めてプロの厳しさ、そこから這い上がろうとするエネルギーを身にしみて感じた。
「チームには本当に迷惑をかけてしまいました。でも、こういう言い方が正しいかは分かりませんが、あの1カ月は自分にとっては得るものが大きな時間だった。今はああいう経験ができて良かったとも思えています」
「替わるか?」「いけます!」
復帰登板は9月10日、首位攻防の阪神戦。
6回を投げ終わって1点のリードを許していた。
「替わるか?」
故障明けを心配してコーチがこう声をかけたが、菅野はかぶりを振った。
「いけます!」
するとすぐさま井端弘和の同点本塁打が飛び出した。7回の裏を簡単に打ち取った直後の8回、1死二塁から坂本勇人の遊撃強襲安打で勝ち越し、復帰戦で10勝目の白星を手にした。
その後も16日の広島戦、マジック4で迎えた24日の中日戦と3連勝。トップを走る防御率だけではなく、最多勝のタイトルをも射程に入れてMVPの最有力候補となったのである。