セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
新生ミランの鍵を握る“パサー”本田。
フィニッシャーが揃う前線との好相性。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2014/08/29 11:50
ミランのレジェンド、インザーギはトップリーグで指揮を執るのははじめて。彼の船出が順調なものになるかどうかは、本田圭佑の出来にかかっている。
3トップの右として、攻撃陣を操り始めた。
W杯後の休養を終えて、NYで直接チームに加わった本田は、3トップの右に入るよう指示された。インザーギは、利き足と逆サイドでプレーするよう選手へ要求することが多い。
本田のポジションは、昨季の後半戦で強いられた2列目の右サイドハーフから、よりゴールへ近づいた。新戦術で組むFWたちのプレー特性に慣れるにつれ、より動きの自由度を見出したロッソネロの10番は、ペナルティエリア内に飛び込む1トップのパッツィーニや左ウイングのエルシャーラウィを操り始めた。
機能し始めた攻撃陣が、チーバスとの北米最終戦で3ゴールを挙げ、チームは初めて攻撃の手応えを得た。バレンシアとのアウェーゲームには1-2で敗れはしたものの、本田自身の調子は右肩上がりを続け、鮮やかなFKゴールも決めた。
開幕を1週間後に控えた今月23日、ミランはユベントスとサッスオーロとのトライアングルマッチ「TIMカップ」に挑んだ。今年1月にセリエAデビューを飾ったマペイ・スタジアムで、本田は躍動した。
王者ユベントスを相手に左足ボレーで決勝弾を挙げ、サッスオーロ戦でもエルシャーラウィの追加点をアシスト。大会MVPに選ばれた本田は、表彰台で少しだけはにかんだ表情を浮かべた。嬉しいけれど、本心からは喜べない。“これはあくまでテストマッチ。俺は満足していない”とでも言いたげだった。
イタリアでは、いまだミステリアスな存在の本田。
昨季は途中加入だったとはいえ、本田がリーグ戦で残した成績は1ゴール2アシストに留まった。シーズン終了後には、ミラニスタたちの間から「はったり野郎だったのか」という失望の声が上がった。
イタリアメディアに口を開かない本田は、なおミステリアスな存在だと思われている。日本とちがい、その発言が一人歩きするリスクはないが、本田は純粋にプレー内容だけで良し悪しの断を下される。
新しいシーズンを迎えるイタリアでは、ブラジルW杯での日本代表の結果など誰も覚えていない。大会についてすら語られることはもはや稀だ。
今、目の前に迫るカンピオナートへ全力を注ぐことだけが己の存在証明になる。そのことを誰より理解しているのは、本田自身だろう。