オリンピックへの道BACK NUMBER
「岩崎恭子2世」から3年――。
渡部香生子がパンパシで挑む“世界”。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byYusuke Nakanishi/AFLO SPORT
posted2014/08/19 11:00
春の日本選手権では高校新記録を打ち立てるなど3冠をなしとげた渡部香生子。まだ17歳ながら、世界記録を期待される逸材だ。
竹村コーチのもとで渡部に戻った前向きさ。
だが、年が明けても試練は続いた。
2013年4月の日本選手権では、200mで決勝に進めないという思わぬ結果に終わり、流れる涙を止めることができなかった。100mで2位、200m個人メドレーは優勝したが、派遣標準記録を突破することはできなかった。
将来性を買われてその年の世界選手権代表には選ばれたものの、そこでも結果を残すには至らなかった。
その中にあって、渡部は1つの決断をした。日本選手権後の5月、シドニー五輪銀メダルの中村真衣らを指導してきた竹村吉昭氏の指導を仰いだのだ。
この決断が、渡部を甦らせた。まだ成長期の16歳、身長が伸び、体重が増える中で新たなフォームを作り直していった。
競技に取り組む姿勢にも変化があった。竹村コーチは、渡部とのコミュニケーションに努める一方で、「苦しいときでも笑顔で」と伝え続けた。それはきつい状態にあっても、前向きに、積極的に泳ぐことに取り組もうというメッセージでもあった。
日本選手権で披露した「強くなった自分」。
その成果が表れたのが、今春の日本選手権。最初の出場種目となった100m平泳ぎで優勝すると、200m個人メドレーでも優勝。残るは200m平泳ぎ。1年前、決勝に進めない悔しさを味わった種目だ。
そして、このレースも渡部は優勝を果たした。勝ったことはむろん、以前より少ないストローク数であったこと、後半に追い上げる従来の展開から先行しての勝利だったこと、その上で自己ベストを1秒37も上回る2分21秒09を出したという事実が、進化を物語っていた。
「(竹村コーチから)強くなった自分を見せるときだ、と言われていたので、結果に出せてよかったです」
笑顔の渡部は、こうも語った。
「やっと世界で戦うスタートラインに立てました」