マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
甲子園までか、プロで伸びる投手か。
「的中率85%」の見極め方とは?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2014/08/05 10:40
昨年一身に注目を浴びた松井裕樹も高校3年の夏、甲子園には出場していない。ランナーへの対応など課題は指摘されていたが、伸びしろを買われ、楽天に1位指名を受けた。
「負の部分」にこそ伸びしろが宿る。
今の悪いクセを修正して、理にかなったフォームで投げられれば。今の貧弱な体をプロの食事とトレーニングで屈強な体躯に変えてあげたら。伸びしろとは、実は、その選手の「負の部分」から生まれてくるものだ。
プロに行ってからも伸びる投手のもう一つの要素は、ボールの質だ。
ストレートなら、130km台でも空振りの三振がとれている投手。変化球なら、打者がビックリしながら振っているような投手。こういう投手たちのボールは、間違いなくホームベース上で伸び、鋭く動くように打者たちに見えている。よく言う「キレのいいボール」というヤツだ。
無理やり体重を増やして力持ちになるためのトレーニングを重ねれば、スピードガンに140km台を表示させることはそんなに難しくない。この夏の予選でも、140km台くらいでは驚かなくなった。なのに、その145kmや146kmがカンカン打たれていくのは、腕力や肩の力だけで力任せに投げるからだ。力任せに投げると、投手の体は早く打者のほうを向いて、ボールも早く見えてしまう。打者にとっては、イチ、ニッ、サン、でタイミングが合ってしまう。“打ちやすい145km”になるわけだ。
昨年夏、目を奪われた鳴門高の板東湧梧。
去年の夏の甲子園で、ベスト8に進出した鳴門高。その板東湧梧投手という痩身のイケメン右腕がいたことを覚えている方も多いだろう。
ストレートは、出ても135km。しかし、長い腕を目一杯しならせた腕の振りと、軸足(右足)が最後までプレートに粘って腰をぐっと前に押し出す見事な体重移動。ストレートは打者の手元でピュッと伸び、同じ位置からスッと沈むスライダーとフォークで、全国有数のバットマンたちにさんざん手を焼かせたものだ。
こういうのが伸びるピッチャーなんだよ……。
淡々と飄々と投げ進めるマウンドさばきも鮮やかで、何度もそう感心しながらピッチングを見つめていたものだった。今は社会人球界の強豪・JR東日本のホープとして、3年後のドラフトを目指している。