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<ブラジルW杯を楽しむ> まるで代理戦争? クラブシーンから読み解くW杯。
posted2014/05/22 11:00
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph by
Getty Images
登録メンバー30人選手名鑑、全64試合スケジュールなどを掲載した今号より、
ドイツとポルトガルに見る“メガクラブの代理戦争”を特別に公開します!
かつてワールドカップは「戦術の見本市」と呼ばれていた。優勝国をはじめ、本大会で成功を収めた国々の新しいシステムに耳目が集まり、その後のサッカー界に多大な影響を及ぼしてきたからだ。
だが、いまやムーブメントの出発点は欧州のクラブシーンにある。業界最高峰の富と人材が集中する巨大市場の中で競争力が高まり、ライバルたちを制する「新商品」が次々と開発されてきた。結果、クラブ発信による最先端の成功モデルが、各国の代表チームに波及し、ワールドカップの大舞台に遅れて登場する逆転現象が起きている。
'10年の南アフリカ大会では、多くの国々が失点のリスクを最小化するブロック・ディフェンスに活路を求めた。この守備戦法は、大会直前の欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝を制し、欧州最強クラブの栄誉に浴したインテル(イタリア)の十八番だった。また超大国では、自国の強豪クラブの根幹を成すシステムやユニットを転用するケースが少なくない。'06年ドイツ大会を制したイタリアは、ユベントスとミランのユニットを組み合わせ、前回大会の覇者スペインは、バルセロナのユニットを柱に据えて破格のパスワークを見せつけている。
当代の最強クラブをロールモデルに見立てる傾向は、この夏のブラジル大会においても変わらないだろう。そこで興味を引く存在が優勝候補の一角に推されるドイツだ。
レーブ監督が望めば「バイエルン化」することは可能。
今季のブンデスリーガで他を圧倒した最強バイエルンのシステムをコピーする選択肢がある。名将ペップ・グアルディオラを新監督に迎えた今季のバイエルンは、ボールの独占を企むポゼッション主義を貫きながら、各々の個性(速さ、高さ、強さ)を生かし、同じ思想・哲学を有するバルサとは一味違ったフットボールを展開している。しかも、バルサ同様、チームの中核にして多数派が自国の選手たちなのだ。指揮官が望めば、代表の「バイエルン化」が可能になる。あとは、従来の強みであったカウンターアタックを、どう落とし込むか。複数の選択肢を持つヨアヒム・レーブ監督の、腕の見せどころだろう。
遅攻と速攻――。今季、その両立を目指したクラブが、レアル・マドリー(スペイン)だ。モウリーニョ政権下のカウンター依存から、機に臨み、変に応ずる「マルチ戦法」への転換を図り、成功を収めている。