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昨季、田中将大の陰に隠れた実力者。
“陰の沢村賞”金子千尋の極意とは。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/04/08 10:30
昨年は29試合に先発し15勝8敗。防御率2.01は田中に次ぐ2位、完投、完封、奪三振では田中を上回る投球を見せた金子千尋。
昨シーズンつかんだ「力を抑える」ことの効用。
金子の言葉で興味深いのは「力を入れて投げた」という表現ではなく、「力んで投げた」と話しているところだ。それはもともと彼が「力みやすい」性質があるからで、「力んで投げたストレートが良くても、自分の調子がいいと思わない」という考えに基づいている。
だがそれは「今年変わった」のではなく、「去年つかんだもの」と金子は力説する。
「去年はシーズン前に怪我をして、ひじに不安を抱えたままシーズンに入りました。開幕はぶっつけだったので、力んで投げるのが怖くてできなかった。でも、力を抑えたピッチングでも、打者を抑えられるということが去年のシーズンの早いうちに分かった。それを1年間、続けたシーズンだったんです」
力んで投げなくても抑えられる――。
今季の開幕戦では、身体が元気な分力いっぱいに投げてしまったが、その反省から、この日の試合では昨季につかんだ感覚を思い起こした。特に勝負所だからといって力を入れて投げたわけではなく、気持ちのコントロールを上手く効かせることができたのだ。
コンパクトに見える投球フォームも、本人からは「特に、何かを変えてはいない」と否定された。実際、取材が終わってから昨年の金子のピッチングフォームと今年のフォームを動画などで見比べたが、確かにフォームに変化はなかった。
金子の最大の長所は、「股関節の回旋スピード」。
本屋敷俊介トレーニング兼コンディショニングコーチに尋ねて分かったのだが、金子の変化は外身ではなく、中身ということだった。
本屋敷コーチは、金子の最大の長所として「股関節の回旋スピード」を挙げ、こう解説した。
「金子は、左足が着いてから身体(股関節)を回旋していくスピードが、普通の投手では考えられないほど速い。そのせいで、腕を速く振れる。バッターからすると、左足がついてから急に身体が回旋して腕が出てくるわけですから、打ちにくいと思います。もともと金子はここが速かったのですが、今年はそれが一段と速くなっているように感じます。投球フォームがコンパクトに見えるというのは、おそらく、回旋スピードが速くて、なおかつ下半身が粘れているからではないかと思います」