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青い空、5機のヘリ、殺風景な埼スタ。
観客のいないスタジアムで考えたこと。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2014/03/25 10:40
上空をヘリが旋回し、取材陣が見つめる殺風景なスタジアムでJリーグ史上初の無観客試合は行なわれた。春分の日の2日後、朝からとてもよく晴れた、いい天気の日だった。
3月23日、その日は朝からとてもいい天気だった。
2014年3月23日、その日は朝からとてもいい天気だった。空は晴れ渡り、日差しは強かった。春分の日の翌々日、昼が夜よりもほんの少しだけ長くなった、まさにそれを肌で感じられるような日だった。あまりにも気持ちがよすぎて、無観客試合を行なうにはなんだかまったく不適当な日に思えた。
その日の朝、僕がまっさきに思い浮かべたのは、友人がときどきパンを買いに行くパン屋の主人夫婦のことだった。彼らはずっと昔から浦和レッズのファンだ。しかし、Jリーグが土曜日に集中開催されるようになってから、スタジアムにはまったく通えなくなった。
土曜日の午後、彼らは一生懸命パンを売らなければならない。今季、リーグの開催方式が少し変わり、シーズン中何試合かは日曜日にも行なわれるようになった。やっと行けるね! 夫婦は嬉々として浦和レッズ対清水エスパルス戦の前売りを2枚買った。そしたらこれである。『パン屋の夫婦と無観客試合』なんだか村上春樹の初期の短編のタイトルみたいだ。
その殺風景な光景は、不発弾処理現場のようだった。
試合のキックオフは午後3時。僕は通常2時間前にスタジアムに到着するようにしている。自宅からスタジアムまでは車で約1時間、途中の高速道路は渋滞もなく、東北自動車道の浦和インターを降りたとき、時計のデジタル表示は12:46を示していた。
スタジアムに着くと、プレスの受付を通り、バッグからカメラを出して、スタジアムの周りを回ってみた。
浦和レッズが、試合当日のスタジアム周辺での応援自粛をサポーターに要請していたからだろう。
いつもならレッズのサポーターで溢れかえっている南ゲート前、浦和美園の駅からスタジアムへ続く歩道もがらんとしている。ところどころに見える人影は、制服を着た警備員と、赤いウインドブレーカーを着た係員と、暗色のスーツに身を包んだレッズのクラブスタッフのものだけだ。
上空からは、この日のためにテレビ局各社が出したヘリコプター(なんと5機も!)の旋回音が聞こえてくる。その殺風景な光景は、無観客試合というよりも、第二次世界大戦の不発弾処理現場、のように見える。